羽村市動物公園でのテナガザルに対する実験 No1 2003年3月21日(金)〜22日(土)

登場するテナガザル:
ちゃ 雄:17歳2ヶ月齢(1985年12月24日生まれ)
さくら 雌:5歳1ヶ月齢(1998年2月19日生まれ)
さつき 雌:4歳3ヶ月齢(1998年11月29日生まれ)

実験・観察時刻と天候:
3月21日(金)天気晴れ、午後3時54分〜4時27分 少し肌寒い
3月22日(土)天気曇り、午後3時22分〜4時8分 かなり肌寒い
テナガは朝夕の2回食事を与えられているが、この2日間は夕食を遅らせてもらい、食事前に実験をした。
なお、3/22には、Takema夫妻に実験を手伝ってもらった。

福知山での最後の実験が昨年9月25日だったので、ほぼ半年ぶりの実験・観察だった。"さくら"と"さつき"と"ちゃ"はふだん同じ檻に入っているが、この実験の時には、さくらとさつきが一緒に、ちゃは隣の檻に分けられていた。
まず、さつきが私たちを覚えているかどうかが問題だった。それで、以前着ていた(見慣れた)服装で青色カップでの指さし課題をやってみた。すると、すぐに反応して、うれしそうに動き回り、さかんに手を差し出した。さくらの方はそれほど反応を示さなかったので、さつきが過去の実験を覚えていて反応してくれたということがよく分った(さくらとは、ほぼ2年2ヶ月ぶりの再開だったし、このような実験はやったことがなかった)。

 左がさつき、右がさくら
 正解した

@多い・少ないの選択課題 対象:さつき
この課題は、福知山市動物園でもやっていた課題だが、ハッキリした結論が出ていなかった。
片側に3切れ、反対側に1切れのリンゴ片をお皿に入れて提示した。

 多い方を取る

さくらとさつきが同じ檻に入っている状態でやったので、二人が同時に手をさし出すこともあるという悪条件の中でも、しっかりと多い方を選択した(これを○とする)。結果は、
3/21:○、×、○、○、○、○、○、×
3/22:×、○、○、×、○、○、○、○
これを合計すると、12/16で、二項検定では、P= 0.0384<0.05となり、有意な結果が出た。

A道具使用実験の追試 対象:さつき
以前福知山でやった、両側に穴のあいた箱での道具使用実験を追試してみた。

 上からみたところ

3/22:○、○、○、○、○、○、○、×
これもさくらが横にいて、近づいてくるのを気にしながらだったが、高い成功率だった。
下の写真のように、右側を取ろうとして思いとどまり、正解のレーキを引っ張るという場面が3回観察された。
これで、やはりできるんだという確信を持つことができた。

 

B目隠した人としない人の選択課題 対象:さつき
この実験はPovinelliがチンパンジーでやったものをまねしたものだが、片側に目隠しした人、反対側にはしない人が立ってカップを支持した場合、どちらを選択するかを見るというもの。

 左側はTakema氏の奥さま

この課題は、うまくいかなかった。
3/22:×、○、×、○、○、○、×、○
課題の意図が理解できなかったようだ。もう少し実験のやり方を工夫する余地がある。
ただ、この実験の最中に面白い場面が出現した。
さつきが、カップからバナナ片を取ろうとして、思いとどまり、さくらにバナナを取らせてやった(譲った)。チンパンジーでは、親しい間柄ではよく見られる光景らしいが、テナガザルでも見られるんですね。

 左がさくら、右がさつき。容器をさつきが持っていることに注意

この場面のビデオ(Quick Time video file)

羽村市動物公園でのテナガザルに対する実験 No2 2003年3月21日(金)〜22日(土)

C鏡の実験 対象:ちゃ
ドイツのGeissmannほかの論文(下のReference参照)にあった、鏡の実験をアレンジしてやってみた。
なお、ちゃは生まれてからこれまで鏡を一度も見たことがない。
実験では、下の写真のように二つのカップの片側にバナナ片を置き、鏡を通じてしか見えないように提示して、どういう行動をするかを見た。

 左側にバナナが隠してある

この装置を檻の前に提示する。

 手伝っていただいたのはTakema氏(手前側)

鏡を、ちゃの檻の前に置いてみた。すると、すぐに反応して鏡の前に来て、じっくりと鏡を見た。

 隠してある箱の前でじっくりと鏡を見た

そして、手を差し出してカップにさわった(左側が正解)。そして、カップを手前に落としてバナナ片を手に入れた。



3回やって3回(左、右、左)とも、全て正解した。初回の時のビデオ画像(Quick Time faile)
4回目に、ちゃが手を出した(正解の右側に手を出した)瞬間に、検査者が鏡を左右に動かしたところ、驚いて飛び下がった。
そのあと1度だけ近づいてきたが、こわごわ左側に手を出した後、2度と鏡の前には来なかった。そして興奮して鉄棒をしながら動き回った。鏡が動いたこと(つまり像が動いたこと)が、ちゃを非常に恐がらせたようだ。
Geissmannの実験では、試行した2個体のうちの1個体が、エサを隠してある箱の前の鏡に頻繁にアプローチして700秒後に箱を取ってエサを入手した。
ちゃは提示してからわずか40秒後に手を差し出して箱に触り、52秒後に箱を手前に落としてバナナを入手した。すごいぞ、ちゃ!

なお、この実験はさつきでもやってみたが、落ち着いて反応せず、3回やってみて、×、○、×だった。全て右側を取ったので、これはわかってないと判断された。

二日間という短期間の実験だったが、このような環境でも実験できることが分ったのが大きな収穫だった。また機会があればおじゃましたい。
最後に、お忙しいところ、私たちの実験のためにご協力下さった羽村市動物公園の職員の皆様に感謝申し上げます。

Reference
Ujhelyi, M.; Merker, B.; Buk, P. & Geissmann, T., 2000:Observations on the behavior of gibbons (Hylobates leucogenys, H. gabriellae, and H. lar) in the presence of mirrors.Journal of Comparative Psychology 114: 253-262

羽村市動物公園でのテナガザルに対する実験 No3 2003年11月14日(金)〜15日(土)

SAGA6が多摩動物園で開催されたので、ついでに羽村へおじゃますることにしました。

SAGAでは、今回もポスター発表をしました。テーマと発表者は、以下のとおり。
「 Does a young gibbon understand seeing-knowing relationship?
Yoichi Inoue, Etsuko Inoue and Shoji Itakura 」

 上半分

 下半分

どういう発表だったかというと、以下の実験をテナガザルのさつきができたというものでした。

実験1:
二つカップの一方にレーズンを隠し、そのカップをタッピングによって指示し、取らせる。
実験2:
@サルに見えないように段ボールのつい立てで隠しながら一方のカップにレーズンを隠す(この操作をする人を「隠す人」とよぶ)。
Aつい立てを取りサルに提示したところに、別の人(これを「入れ替える人」と呼ぶ)が現れ、「隠す人」の頭に大きな紙袋をかぶせる。
B「入れ替える人」は二つのカップの左右を入れ替えてから、「隠す人」の頭にかぶせてある紙袋を取り去る。
Cそこで「隠す人」が、自らレーズンがあると信じている方のカップ(自分が隠した方=入れ替わったのですでにそこにはレーズンはないが)を指示する。
サルが「隠す人」の指示したのとは反対側のカップを取れば正解。

@

 A

 B

 C

この課題をさつきができたので、テナガザルは「見ることと知ることの関係」を理解できる可能性があると言えるだろう。
なお、saga6のプログラムと要旨は、ここにあります(私どもの発表要旨は25ページ)。

 グドールさんの講演風景

多摩動物園を1時50分に出て、モノレールで立川へ、青梅線に乗り換え羽村へ、長岡循環という市内バスで東台下車。3時に羽村市動物公園着。

登場するテナガザル:
ちゃ 雄:17歳10ヶ月齢(1985年12月24日生まれ)
さくら 雌:5歳9ヶ月齢(1998年2月19日生まれ)
さつき 雌:4歳11ヶ月齢(1998年11月29日生まれ)

実験・観察時刻と天候:
11月14日(金)天気くもり、午後3時30分〜4時12分
11月15日(土)天気くもり、午後3時15分〜4時30分、肌寒かった
閉園まぎわでお客さんがいなくなってから実施。

 ちゃにグルーミングをするさつき

今回は、さつきに対して以下の実験をやってみました。
AとBはlandmark課題といい、Call.J (2003)がチンパンジーとオランウータンで行っている。
@3つのカップの一つにリンゴ片を入れ(入れるのを見せる)、ついたてで10秒間隠してから選択させる。
A2つカップの一方に黄色い目印を5秒間置き、それから目印を取ってから選択させる。
B2つカップの一方に黄色い目印を5秒間置き、それから目印を取ってから台を180度回転させてから選択させる。

結果
@二日間で18回試行して、10/19(7/9、3/9)という結果でした。
できが悪いですが、1日目は最初に実験し、2日目は最後にしたので、その時の環境の違いがでたのではないかと思われます。
二日目は検査が夕方遅くなって(この日は土曜日でお客さんが多く、検査開始時間が遅くなった)寒くなり、早く暖かい寝室に入って夕食を食べたいという気持ちが強く、10秒間待たなくてはいけない検査に集中できなかったのではないかと思われました。条件がよければできそうなので、次回にもう一度挑戦するつもり。

 リンゴ片を見せながらカップに隠す

 10秒間ついたてで隠す

 取らせる

A2つカップの一方に黄色い目印を5秒間置き、それから目印を取ってから選択させる課題
16回試行して、12/16(6/8、6/8)。二項検定で、Prob(x>=12| p= 0.5, N=16) <= 0.0384
B2つカップの一方に黄色い目印を5秒間置き、それから目印を取ってから台を180度回転させてから選択させる課題
16回試行して、さつきでは14/16(7/8、7/8)。二項検定で、Prob(x>=14| p= 0.5, N=16) <= 0.00209
何故か回転課題の方ができがよかった。その時の集中力の違いによるのかもしれない。
試しにさくらでもやってみたら、3/4だった。さくらは4回やったところで検査に乗ってこなくなった。
以下の画像は、さくらでの実験風景(一日目)。

 カップに黄色い目印(左のカップの上)を5秒間置く

 目印を取り

 台を180度回転させてから

 取らせる

目印を手がかりに取れること。また、180度回転しても取れることが分かりました。

HPtopへ

inserted by FC2 system