さつきの実験No19 2002年7月13日(金) (3歳7ヶ月齢、さつきの生年月日は1998年11月29日)

快晴。夕方のpm15:45〜16:30まで実施。お客さんは若いアベックが一組のみ。
今日は落ち着いていた。このところお客さんが少なくて寂しかったのか、すぐに抱きついてきた。
時間的な余裕がなかったので、液晶モニターの実験はやらなかった。

<道具使用実験その3>
下の写真ように、両方穴あきで、食べ物(リンゴ片)の一方は穴の手前、もう一方は穴の向こう側という課題をやってみた。
穴と食べ物の位置関係が理解できるかどうかをみる実験。

 どちらを取るか?

まず、上の写真の状態で3回練習してみた。右を取れば正解。
1回目は左側を取って失敗。2回目も同じく失敗。3回目にやっと右側を取って成功。
それで、本番の実験に入った。

 正解。

それが、8回やって全て成功。もちろん、左・右の試行回数は同じになるようにしてある。
すばらしい!

<欲張りな心はあるか?>
@多い方を選択する課題
下の写真のように、二つのお皿に食べ物(リンゴ片)を1個と3個セットして、多い方を選択できるかどうかをみた。

 右側の1個の方を取る

結果は、×、×、○、○、×、○、×、×。
8回やって3回の成功。多い方が左・右4回ずつになるように試行したが、7回目に左側(1個の方)を取った以外は、多い少ないにかかわらず、全て右側を取った。
さつきにとっては多い少ないは関係なさそうだ。
今までもそうだったが、手がかりがない時には右側を取りやすい傾向にある。利き手側を取るということかもしれない。

 右側の多い方を選んでも、1個ずつ、それも右端から取る。

A大きい方を選択する課題
前回と同じく、大きいバナナを左側、小さいバナナを右側(さつきから見て)に提示し、その取り方を観察した。
大きい方を取る意思があれば、右側に偏ることはないはずである。
しかし、4回やって4回とも右側の小さい方のバナナを取った。
それで、5回目に右側に大きい方のバナナを提示すると大きい方を取ったが、この試行も右側だから取ったと考えられる。
また、どの試行でも最初から右側を注視し、見比べは見られなかった。
つまり、左・右どちらにも食べ物がある場合、大きい小さい、多い少ないに関わらず、右側を取る傾向がハッキリした。

ヒトは1歳半〜2歳頃自我が誕生・拡大すると、欲張りな心が芽生え、その欲張りさが発達の原動力の一つとなるといわれている。
テナガザルではどうなのか試してみた結果、上記のように食べ物が一つあれば満足し、多少・大小には関心を示さないことが分かった。また、一つ持ってさえいれば、目の前にあるもう一つを欲しがることもない。大変慎ましやかなサルである。

<バナナとひもの実験>
ひもで縛ってあるバナナを引き寄せられるか?
これは、4回やって2回成功した(○、×、×、○)が、全て右側を取った。

 右側のひもを取って失敗した。

これまでの6回の結果をまとめると、13/24(54.2%)の成功率。
明らかに、ひもとバナナの関係を理解できていない。
しかし、道具使用の実験で、穴と食べ物と道具の関係が理解できているのに、この課題ができないのは不自然だ。
上の写真の場面では、右側のひもを取って失敗したが、さつきの位置からはひもとバナナの接点がよく見えず、さつきから見ると、ひもとバナナがどちらもつながっているように見えているのかもしれない。
次回はもう少し結び目が見えやすいように改善してやってみる予定。

さつきの実験No20 2002年7月17日(水) (3歳7ヶ月齢、さつきの生年月日は1998年11月29日)

曇り。夕方のpm15:45〜16:45まで実施。動物園の休園日。
さつきは落ち着いていた。

<指さししたレーズン入りカップを取るか?>
これは8回やって7回成功。○、○、○、○、○、○、×、○。

<指さし場面を液晶モニターで見せたあと、指示したカップを取るか?>
これは8回やって6回成功。×、×、○、○、○、○、○、○。
最初の2回以外は、確実にできた。
3回目以降は、検査をやっている我々も、「これは分かって取っているな。」という手応えを感じることができた。
その場面↓。

 画面で指さしを見せて

 実物を選択させる

この場面のビデオファイル→
なお、このビデオには、さつきが画面に手を出す場面が収録されている。

<道具使用実験その3>
前回に引き続き、両方穴あきで、食べ物(リンゴ片)の一方は穴の手前、もう一方は穴の向こう側という課題をやってみた。

 正解。

結果は、8回やって7回成功。×、○、○、○、○、○、○、○。
これも確実に理解できている。
この場面のビデオファイル→

この実験の際、さつきが道具を持っていってしまったので、取り返そうとリンゴ片を見せたところ、これまでなら道具をポロッと落としてリンゴ片を取りに来たが、この時は、足で道具を持ったまま、取りに来た。明らかに、「道具は渡さないし、リンゴもいただくぞ」という意図を持った行動だった。
一つの物を保持しながらもう一つの物を取る姿を見て、急に成長したような印象を受けた。

 道具を離さないで、リンゴ片を取った。

<欲張りな心はあるか?>
@多い方を選択する課題
前回と同じく、下の写真のように、二つのお皿に食べ物(リンゴ片)を1個と3個セットして、多い方を選択できるかどうかをみた。

 多い方を取った。

結果は、8回やって6回多い方を取った。○、○、○、○、×、○、×、○。
4回目には、少ない方を取ろうとして思いとどまり、反対側の多い方を選んだ。
前回は、8回中3回しか多い方を取らなかった。
どうして急にできるようになったんだろう?
これまでは、目の前にあるエサを何も考えずに取っていた(この場合はいつもさつきから見て右側を取る)。
が、よくよく見ると、多い方があるじゃないか、そちらを取った方が得じゃないかと気がついた(出題者の意図を読みとった?)のかもしれない。
いずれにしても、テナガザルは学習能力の高いサルだということが言えるだろう。
あるいは、こういう変化(できなかった課題ができるようになること)を、”発達”と言うのかもしれない。
後半に2回間違えたが、これは、それまでにたくさんリンゴを食べてお腹がいっぱいになり、食欲がなくなったことが原因しているかもしれない。

A大きい方を選択する課題
前回と同じく、大きいバナナを左側、小さいバナナを右側(さつきから見て)に提示し、その取り方を観察しようとしたが、ここまでの検査でたくさんリンゴ片を食べているので、取る寸前に手前に引いて食べさせないことにした(しかし、これは失敗だった)。
1回目:いつものとおり、右側の小さい方を取ろうとしたので、バナナ片を手前に引くと怒ってキーキー声をあげた。怒ってあたりまえか?
2回目:今度は左側の大きい方を取ろうとしたが、これも手前に引いた。すると、今度は周囲に設置してある柵を倒して怒った。
3回目〜4回目:全て左側の大きい方を取ろうとした。
かわいそうなので、4回目にはバナナを取らせてやった。
この実験はうまくなかった。やはり選んだバナナは取らせて食べさせるべきだった。
2回目に大きい方を選択したのは、1回目に小さい方をもらえなかったからかもしれない。
ただし、この実験で、さつきが大きい方を選択することはできる、ということが分かった。

<バナナとひもの実験>
ひもで縛ってあるバナナを引き寄せられるか?
ひもとバナナの接点をわかりやすくしてやろうとしたが、段ボールでつくった装置が不安定で、提示する直前にバナナが転げ落ちたりして、うまく提示できなかった。
次回に改善するつもり。

さつきの実験No21 2002年7月24日(水) (3歳7ヶ月齢、さつきの生年月日は1998年11月29日)

快晴だが、台風9号の影響で時々強い風が吹いていた。夕方のpm16:20〜16:40まで実施。動物園の休園日。
さつきはやや落ち着きに欠けていた。
それは何でわかるかというと、落ち着いている時は、抱きついてきた時に抱いてやるとじっとしているが、そうでない時は抱きつくと頭の毛をひっぱったり、腕に噛みついたり(ひどく噛むわけではないが)する。
やはり、晴れの日は落ち着きに欠けるように思われる。
時間に余裕がなかったので、液晶モニターの実験のみやることにした。

<指さししたレーズン入りカップを取るか?>
これは8回やって5回成功。○、×、○、×、×、○、○、○。
こんなにできなかったのは初めて。やはり今日は集中力に欠けていたようだ。
なお、ここまでの3度・24回の試行の正答率は、18/24×100=75%
これを二項検定でみると、Prob(x>=18| p= 0.5, N=24) <= 0.0113

<指さし場面を液晶モニターで見せたあと、指示したカップを取るか?>
これは8回やって6回成功。○、○、○、○、○、×、○、×。
画面はしっかり見ていたが、後半に少し集中力が欠けたようだ。
ここまでの3度・24回の試行の正答率は、17/24×100=71%
これを二項検定でみると、Prob(x>=17| p= 0.5, N=24) <= 0.032

これで、モニターを使用した実験がひとまず終了した。
4月13日に初めて檻の前でテレビ画面を見せた時は、画面に全く反応しなかったが、その後3回の試行錯誤を経て、5/15に初めて実験に成功した。 それからは一度だけ、ドアの後ろに隠れた検査者が気になって画面を見ないことがあったが、あとは画面に反応してくれた。画面を見たら実物のカッ プが出てくることを学習し、だんだん画面に集中するまでの時間が短縮してきたので、実験する側もやり始めた頃に比べると、ずいぶん楽になった。
試行錯誤の結果、段ボールを使用して壁をつくり、さつきが画面を見ているかどうかを私が見ながら、見た瞬間に合図を送り、その後すぐかみさんが カップを提示するという手順が確立した。その(今日の)場面↓。

 さつきに画面を見せ

画面を見たのを確認すると後ろの検査者に声で合図を送り、すぐにカップを提示する。

 カップを提示する

さつきは、液晶画面を手がかりにしての簡単な左右選択課題はできるということがわかった。

さつきの実験No22 2002年8月7日(水) (3歳8ヶ月齢、さつきの生年月日は1998年11月29日)

動物園の休園日、夕方短時間下記の実験をした。晴れ。

<道具使用実験その3>
両方穴あきで、食べ物(リンゴ片)の一方は穴の手前、もう一方は穴の向こう側という課題をやってみた。
結果は、8回やって5回成功。×、○、○、○、○、○、×、×。
少し集中力に欠けていた。
これで、 ここまでの3度・24回の試行の正答率は、20/24×100=83%
これを二項検定でみると、Prob(x>=20| p= 0.5, N=24) <= 0.000772

<欲張りな心はあるか?>
二つのお皿に食べ物(リンゴ片)を1個と3個セットして、多い方を選択できるかどうかをみた。
結果は、8回やって4回多い方を取った。○、×、○、×、○、○、×、×。
1回目には、見比べて多い方を選んだのだが、後はできなかった。

さつきの実験No23 2002年8月28日(水) (3歳9ヶ月齢)

動物園の休園日、夕方短時間実験した。晴れ。さつきは落ち着きがなかった。

<欲張りな心はあるか?>
二つのお皿に食べ物(リンゴ片)を1個と3個セットして、多い方を選択できるかどうかをみた。
結果は、8回やって5回多い方を取った。○、×、○、×、○、○、×、○。
5回目のみ左側(多い方)を選んだが、後は全て右側を選んでこの結果になった。

8月16日(金)にニホンザルの江梨子がお客さんをちょっと引っ掻いたことが原因で客とトラブルになった。その日以来、江梨子だけでなく、さつきも檻に閉じこめられた。そのため、精神的に非常に不安定になっていた。
この日のさつきの様子を見て、エンリッチメントが実験にも大きく影響するんだということをまざまざと感じさせられた。
伸び伸びと遊び回り、人と触れ合うことによって、類人猿の能力は最大限に発揮されるのだ、ということをこの3年間の実験で強く認識させられた(このことは人間の場合にもあてはまるのだが・・・)。

さつきの実験No24 2002年9月25日(水) (3歳10ヶ月齢、さつきの生年月日は1998年11月29日)

晴れ時々曇り。夕方のpm15:30〜16:00まで実施。
動物園の休園日だったので、さつきは、朝から広場に繋いでもらってよく遊んでいた。
そのためか、落ち着いていた。

<欲張りな心はあるか?>
多い方を選択する課題
下の写真のように、二つのお皿に食べ物(梨片)を1個と3個セットして、多い方を選択できるかどうかをみた。

 少ない方を取った

8回ずつ2度実施した。
1度目の結果は、8回やって4回多い方を取った。×、○、×、×、○、○、×、○。
2度目は、8回やって7回多い方を取った。×、○、○、○、○、○、○、○。
2度目の6回目には、2つのお皿を良く見比べてから、まず少ない方のお皿を足でつかんで確保し、そうしながら多い方の梨を悠然と食べた。

 足で少ない方を掴んでから多い方を取る。

<結果>
1度目より2度目の方が多い方を取る確率が高かった。これは、どういうことなのか?何回も繰り返しているうちに、途中から「こっちの方が得だぞ」と気がついたということなのだろうか?
これまで何度も同じ実験をやってきた(*)が、日によって結果が大きく違う。トータルしてみると多い方を取る確率の方が高かったが、多い方をよく取った日はさつきが落ち着いていた時である。集中してよく見比べる条件が整えば、多い方を取るとも言える。

ヒトは1歳半になると自我が誕生し、その自我の働きで多い方を自分のものにしようとすると言われる。この欲張りな心が発達の原動力となるそうである。テナガザルに自我が誕生するのか?それを調べるためにこの実験をやってきた。今のところ数字では確実に証明することはできないが、しっかりと見比べて多い方を取る姿を何度も見ることができたことは大きな収穫だった。

(*)これまでの結果は、3/8、6/8、4/8、5/8、4/8、7/8。
全て合計すると、29/48=60.4%、二項検定では、Prob(x>=29| p= 0.5, N=48) <= 0.0967
これをグラフで示すと、下図のようになる。


COE2/SAGA5シンポジウム 2002年11月14日(木)〜16日(土) フロイデ(犬山市)

SAGAシンポジウムに参加するのは、これで3度目。
SAGAとは、「Support for African / Asian Great Apes」つまり、「アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い」のこと。今年は、SAGAとCOE(「Center of Excellence」つまり、「文部科学省科学研究費補助金特別推進研究」)が合体して、「類人猿の進化と人類の成立」というテーマの国際シンポジウムが開催された。
下の写真は、宿泊した犬山セントラルホテル10階の部屋から見た犬山市内。目の前に名鉄犬山駅がある。中央左よりの丘の上には霊長研が、また、中央右寄りには今回の会場となったフロイデが見える。

 犬山セントラルホテル10階から東側をのぞむ

このシンポに私たち(井上陽一・井上悦子)は、二つのポスター発表を申し込んだ。
最初、どちらも英語にしようと考えたが、発達比較の方はすぐには英語にできそうもなかったので断念し、結局、以下の二つの発表(要旨)となった。
@The Trap-Table Problem with a young white-handed gibbon (Hylobates lar)
Aシロテテナガザル幼児(4歳未満)の発達

 SAGAのポスター風景

今回のCOEポスター発表では、5分間の口頭発表(英語、Power Point使用)ができるというお知らせメールが11月初めに届いたので、大急ぎで準備した。英語での口頭発表は初めての経験なので、同じ職場のT先生(英語教師)やR先生(AET)に事前に原稿を見て修正してもらった。おかげで、何とか無事に終えることができた。

 5分間発表風景(私ではありません)

 聴衆

こういう場に出ると、自分の英語の発音がいかにいいかげんか自覚させられる。そういう意味ではいい経験だったと思う。
サルの研究としてはシンプルで幼稚な発表だったが、対象がテナガザルだったということで、多少は関心を惹いたようだ。
あとで、Max Plank Institute(ドイツ)のJosep Call氏から「Interesting。(Trap Table Problemの)実験についてもう少し詳しく教えてほしい。」と声をかけてもらった。

ところで、今回のシンポジウムでは、初日夜のPartyが盛会だった。世界の第一線の研究者の方々と我々一般からの参加者とが、非常にアットホームな雰囲気で交流することができた。気がつけば、何の抵抗もなく自然に、グドールさんや写真家のTim Laman氏(この方オランウータンやボルネオ野生動物の写真、特に飛ぶヘビの写真は素晴らしかった)としゃべっていた。

 グドールさん(中央)と友永さん(右)

会場の片隅には、グドールさんの旅の友”ミスターH”も座っていた。

 ミスターH

一つ気がついたことだが、サル関係の研究者の服装は非常にラフだった。前述のCall氏は革ジャンだったし、ネクタイ・スーツ姿の方がほとんどいなかった。このラフな服装も研究者と一般の方々との壁を取り払うのに一役かっていたように思われた。

 にぎやかなParty風景

ポスター発表で一つ、興味深いものがあった。「FOXP2 language gene」についてのJohn J. Ely氏(上の写真、左手前の青シャツの方)の発表だった。Abstractはこれ
言語に関するDNAの一部で、下図のような変化が見られたという。
上から、ヒト、チンプ、ゴリラ、オラン、テナガの順に示してある。


In-frame indels in Poly-Q Region(Exons 5-6)(John J. Ely氏のポスターより)

チンプとヒトとが似ているのは当然だが、上図で左半分が同じなのに対して、テナガとヒでトは右半分が同じだった。また、テナガとオランは全く同じ。これが何を意味しているのか、Ely氏に直接尋ねたが、DNAについての知識不足でよく理解できなかった。が、面白い事実だと感じた。

例えば、こういう系統図(赤線:テナガとオランを別のグループと考える)は考えられないものだろうか?

“心の進化”(松沢・長谷川編)より引用した図を一部改変した

福知山動物園の、さくらもさつきもいなくなってしまったけれども、テナガザルの研究は希少価値があるので、今後も何とかして模索していかねば、という気持ちを新たにさせられたシンポジウムだった。

HPtopへ

inserted by FC2 system