シロテテナガザルの発達検査  No1 99/12/11(Sat)  1歳9ヶ月齢

福知山市三段池動物園のシロテテナガザル(生後1歳9ヶ月)で簡単な発達検査をやってみた。

シロテテナガザルは98年2月生まれのメス。生まれも育ちも三段池。名前を”さくら”という。
親と同居していると虐待されるため、両親と離れ、一人暮らし。
ふだん動物園の中庭に首輪でつながれて、客と自由に遊べるようにしてある。
検査の道具は、京大文学部心理学教室出身のグループが開発した「新版K式発達検査」のものを利用した。
なお、テナガザルは類人猿に属すが、ゴリラ、オランウータン、チンパンジーよりは系統的に原始的と考えられている。

<検査とその結果>
@振るとチリン・チリンと音の出る小さい鐘を持たせてみて、音を出せるかどうかためす。
手に持って鐘の中の振り子をなめる、もてあそぶが、しばらくして興味をなくしてポイと投げる。
鐘を鳴らして遊ぶという知恵はない。

テナガサル鐘.JPG (18451 バイト) 鐘をもてあそぶ。

テナガサル2.JPG (16337 バイト) 左手で鐘を持ち、右手で中の振り子をさわっている。

A積み木を一個そばに置く。
右手に持ってかじる。
B積み木をもう一個そばに置く。
もう一方の手で持つ。つまり両手で積み木を持った。
C三個目をそばに置く。
持っていた一個(右手の)を置いて、三個目を持つ。(これは、けっこう高度な行動だ。)
しかし、これもすぐに興味をなくしてポイと投げる。

Dひものついた輪を持たせる。
ひもも輪もかじってみる。しばらくして興味をなくす。

テナガサル輪.JPG (29107 バイト) 輪をかじる。

E穴のあいた箱の前に、穴の形をした3種の積み木を置き、入れられるか見る。
これは、やり方の手本をみせてやっても全くできない。模倣ができない。

テナガサル緑の箱.JPG (33077 バイト) 園長さんが一生懸命積み木の入れ方を教えるが、ダメ。

<まとめ>
すべてのものを口でかじってみる。
鐘、積み木、輪ともすぐに興味をなくして投げ捨てる。
人の模倣はできない。
人間でいうと、0.5歳くらいの発達段階か?

もう少し、一歳以下の発達検査を詳しくやる必要がある。
さらに、1年おきくらい(*)に検査をしてみると、発達の様子がわかるかもしれない。
(*京大霊長類研究所、松沢哲郎氏のアドバイスにより1ヶ月おきにやることになった。)

<追加>
”さくら”と同じ大きさのゴリラのぬいぐるみを見せたが、怖がらず、ぬいぐるみとじゃれて遊んだ。
(マントヒヒは強烈に反応し、非常に怖がる。)

<感想>
彼女はまだ1歳10ヶ月なんだから、人間の0.5歳くらいとしてもそれ自体はどうということはない。今後の成長がどうかが問題だろう。
そばにいても、サルという感じがしない。物腰が落ち着いているし、ニホンザルのようにせわしく動きまわるということがなく、
直立して二本足でゆったりと歩き回る(これぞヒトじゃないか?)。ただ、道具を使う、作るというのは無理そうだ。

皆さん、ぜひ動物園に足をはこんでみて下さい(園長になりかわってのお願いです、入園料大人210円、子供100円、4歳未満タダ、
水曜休み、TEL:0773-23-4497)。今まで210円は高いと思ってましたが、この”さくら”と遊べるなら安いもんです。
なお、熱帯雨林原産の彼女には日本の冬は寒すぎます。中庭に出ているかどうか電話で問い合わせてから行ってください(冬以外は出ています)。

このように↓人に甘えることができるので、ムチャクチャかわいい〜!生きたぬいぐるみだ。

テナガサルおやすみ.JPG (40393 バイト) 夕方4時すぎ、寒くなって抱きついて寝てしまった。だってまだ、赤ちゃんなんだもん。

<さくらの生育歴>
園長さんから聞いた話(99.12.29)によると、
”さくら”は98.2.19生まれ、第2子。黒毛の兄がいたが、どこかの動物園にもらわれていった。

父:1980年9月に輸入されて動物園に来た。(原産地・年齢不詳)。黒色毛。
母:1980年2月18日宝塚動物園生まれ。なまえは”とみこ”。茶色毛。

現在、妹が両親と一緒に生活している。お母さんの”とみこ”は現在妊娠中で、2000年1月に出産予定。”さくら”は一人暮らし。
妹が生まれてから赤ちゃんがえりをして母親に甘えていたが、今年の春頃、それに父親が怒って、耳をかんだため両親から離した。他に部屋がないので、やむをえず昼間は園内につないで放し飼いになっていた。夜は園長さんの自宅で育てられた。
次の赤ちゃんが産まれれば、妹が同じ運命になるので、”さくら”はどこかへもらわれていくかもしれない。
まだ、あの大きな叫び声は出さない。

ニホンザルは、ときにはたたいて、きびしくしつけないと言うことを聞かないが、テナガザルに同じように接すると信頼関係がいつまでもできないそうだ。これは学校の体罰教師と生徒の関係と同じだ。テナガザルは人間に近いなと思う。

シロテテナガザルの発達検査  No2   00/01/03(Mon) 1歳10ヶ月齢

<はじめに>
何の目的で発達検査をするのかという疑問があるかもしれないので、思いつくことを箇条書きにしてみる。

★ヒトと他の霊長類の行動発達を比較して、進化の道すじを明らかにする。
★その研究の中で、ヒトとチンパンジー、マカク(ニホンザル)との比較研究はあるが、テナガザルの研究は少ない。→テナガのデータを蓄積する。
★いままで、テナガでは道具使用や鏡での自己認識について否定的な報告ばかりだが、本当にそうか追試する。
(以上、ほとんど京大霊長研・松沢氏の助言による。)

ヒトの発達診断については詳しい研究がなされていて、乳幼児検診などで実践されている。
私が参考にしたのは、田中昌人・田中杉恵著「子どもの発達と診断」(大月書店刊、1〜2が乳児期)で、この本は写真が豊富でわかりやすかった。
大型類人猿やマカクの行動発達については、竹下秀子著「心とことばの初期発達:霊長類の比較行動発達学」   (東大出版会)が詳しい。

<検査とその結果>
午後1時過ぎ〜2時前まで実施。晴天、暖かい。
"さくら"は1歳11ヶ月齢。

@大きな鏡(縦45cm、横30cm)を見せる
最初、鏡についている紐が気になって、自分の姿をじっくり見ない。
鏡を見て歯を向き、威嚇する?。顔を鏡にくっつける。しばらくして鏡の後ろに手をやる。
後ろに別のテナガがいると思ったようだ。

テナガ鏡.JPG (32612 バイト) 鏡の後ろが気になる。(これは、Anderson,1984 に同じ報告がある。)

A鐘を置いて様子を見る
見たとたんに興味を示し、置いてすぐ(右手?)で鐘をわしづかみにして、中の鐘舌をなめたり、柄をかじったりした。右手や左手で持ち替えたり、両手で鐘をいじった。
B積み木
左手で取る。右手で持ち替え、左手で2個目を取る。3個目は右手のを落として右手で取る。
右手に持っていた積み木を落とし、それを右手で拾った。
さらに右手にもう一個持たせてみたら、左手で1個、右手で2個の計3個を持った
ただし、積み木がどちらの手の近くにあったかで、取り手がきまったように見える。
つまり、近い方の手が出た。

テナガ積み木3個.JPG (20262 バイト) 右手に2個、左手に1個持つ。ちょっとかじる。

Cタオル
両手で積み木を持った状態で、頭にタオルをかけると、両方の積み木を落としてタオルをつかみタオルを顔から取りさる。
D輪と紐
テナガの右側に提示した赤い輪を右手で取って、口でくわえて運び、すわって右手や両手で輪をかじる。(体の正面に提示するべきだった。試験者の提示の仕方が悪かった。)
E入れ子
カップをなめただけで、箱入れはできず。

テナガ入れ子.JPG (33887 バイト) カップを持ってはみるが、それだけ。

F棒きれ(長さ30cmの孫の手使用)
先についているゴムのボールを口でかじる。道具としては使用せず(できず)。
Gレーズン
右側に置いたのは右手で、左側に置いたのは左手でつまんで食べる。つまみ方は、親指の先と人差し指の根本とでつまむ。
Hテッシュの箱
左側においたテッシュ箱から、最初は左手でテッシュを取り出す。それを右手に持ち替えて落とす。2,3枚目は左手でとったのをすぐ右手に持ち替え、右手で持って落とす(連続動作)。4枚目は左手で取って口に持っていき、かむ。しかし食べず。そこで、箱をかたづけたがそれ以上固執せず。

テナガティッシュ.JPG (34078 バイト) 左手で取りだして、右手に持ち替え下に落とす。

I課題箱
穴に丸棒、角板を入れるのはできず。丸棒をかじる。人が丸棒を入れるのを見て、箱の中をのぞき探した。
Jロープ
関心を示さず。
Kバナナ
最初、遠くから見せたが関心を示さず。(ふだんバナナの皮をむいて小さく切ったものを食べているらしく、バナナと気づかなかったようだ。)
届く範囲のちょっと外側にバナナを置き、近くに棒きれ(孫の手)を置く。しかし、棒きれを道具としては使えず。それで、バナナをつかめる範囲に置くと、左手でさっとつかみ、最初かじって、中身を食べ、皮は捨てた。左手で鉄棒にぶら下がりながら、右手でバナナを持ってかぶる。半分くらい食べたところで、座って右手でバナナを持って左手で皮をむいて食べた。結局全部食べた。

テナガバナナ.JPG (32928 バイト)   バナナの皮をむいて食べる。たぶん、初めての経験。

L積み木2個を目の前に見せ、少しづつ両側に離していって反応を見た
二個を目の前に置いて、徐々に離していくと、右にちょっと注意を払っておいて、左を見て、左の積み木を左手で取ろうとした。

<まとめ>
様々なものに対して、興味関心は非常に強い。しかし、すぐにあきる(人間でも同じかなあ?)。
ボールを投げると左手で受けるので、”さくら”は左利きと思われたが、人間の場合、右利きは左手でボールを受けるのでよく分からない。
物をつかんだりつまむ時、左手も右手もおなじように使える。

<およそのサイズ(正確ではない)>
手(肩から指の先まで):47cm
足(足の付け根から足指の先まで):40cm
胴(首から尻まで):32cm

シロテテナガザルの発達検査  No3  00/02/05(Sat) 1歳11ヶ月齢

真冬にしてはいい天気だった。3時に動物園に到着。入場者が多い。ほとんどが幼児連れの客。
子ども達が、”さくらちゃーん”と声をかけてまとわりついている。
さくらは動物園の人気者として完全に定着している。

得意のぶらさがり.JPG (31101 バイト) 得意のぶら下がりポーズ、このように左手でぶら下がることが多い

先日、赤ん坊(弟)が産まれた。
両親と妹、赤ん坊の写真はこのページの一番下にある。

さて、発達検査だが、前回とほぼ同じようにやってみた。検査時間は約1時間。
ただ、まわりのギャラリーが多く、気が散って、落ち着いて検査できなかったきらいがある。少し興奮気味だった。
(こちらの仕事の都合で、平日に訪問することができないので仕方がない。)
さくらは現在2歳。
前回まではビデオカメラが不調で録画できなく、詳しい記録がとれなかったが、今回はバッチリと撮れ、家でゆっくり再現しながら詳しいメモが取れた。

<検査とその結果>
@鐘を持たせてみる。
最初、左手で持って鐘舌をなめる。しばらくして両手でもってなめる。
「鐘を頂戴。」というと、右手に持ち替え、木の上に登って左手で枝につかまりながら、木に腰掛け、今度は右手で持ち鐘舌をなめる。そして、ポイと捨てる。
目の前で鐘を鳴らしてみるが、興味を示さない。

A積み木
赤い積み木を目の前に置くと、左手でさっとつかみ口に持っていく。もう一個置くと、持っていた積み木を右手に持ち替え、左手でつかむ。もう一個置くと、左手のを置いて、右手に持っていた積み木を口に持っていく。左手でもう一個つかんだが、すぐにポイと捨てる。左手の積み木を捨てた後、すぐ眼鏡を取りに行く。
積み木にはすぐ興味をなくす。

両手で持つことはできる。
また、左手が利き手であることがよくわかった。木にぶら下がるのも左手が多く、ものを投げてやると必ず左手でつかむ。

B入れ子
カップ(黄色)の中に積み木を3個入れて目の前に置くが、カップにだけ興味を示し、左手で持ってかじる。積み木はこぼれ落ちる。しばらくしてカップもポイ。
カップを3つ並べて置いても、一つだけつかんでかじる。
3つ重ねて置くと、右手でもって左手で中の小さいカップをつかんで出した。入れるのは無理。
しばらく後、カップの中に積み木(一個)を入れて置くと、今度は右手でつまんで出した(人間では生後9カ月頃に見られる?)。だが、積み木をカップの中に入れるのはできない。

入れ子を取る.JPG (28044 バイト) 中の小さいカップ(青色)を取り出す

Cテッシュ
箱を置くと左手でつまみ出す。5枚ほど出した後、テッシュをかじる。
なくなるまで出し続けるということはできない。

D二個のボール(サルから見て左側にピンク、右側に黄色のボール)を目の前に提示し、注視させたところ、最初から右側の黄色いボールを追視し、右手で取ろうとした。三回繰り返したが全ておなじであった。
色に対する興味の違いか?

Eバナナと道具
手の届く範囲のちょっと外側にバナナを置いて、その手前に孫の手を置き、使い方も示してやるが、道具としては使えず。

bananaと道具.JPG (38939 バイト) こうして孫の手の使い方を教えてやるが、バナナを取れず

人の動作の模倣はあいかわらずできない。
距離感がわかっているので、遠くから見て手が届かないと判断した時は、すぐにあきらめて取ろうとする努力をしない。よく言えば、見通しがきく。

F課題箱
例示しても、穴に入れられず。丸棒、角板をかじるだけ。

G鏡
鏡を見て、鏡の後ろに手を伸ばす。立ち上がって後ろ側をのぞく。
おでこと右腕の肘の後ろ側に赤いマーカー(女子高校生が髪を一時染めるのに使用しているスプレーで)をつけて鏡を見せるが、鏡を覗いただけ。

赤いマークと鏡.JPG (26871 バイト) おでことひじに赤いマークをつけて鏡を覗かせたが自己認識はできない

H小さなゴリラのぬいぐるみ 
今回は非常に喜んで遊んだ。興奮してころげまわり、じゃれ遊びをした。これはいつまでもあきなかった。

ゴリラのぬいぐるみ(手の届く範囲)とバナナ(ちょっと手が届かないところ)を置いて様子をみるが、すぐにぬいぐるみを取ってそれで遊び、そこでバナナへの執着はなくなってしまった。

二つの物を見比べる力が弱い。一つは取っても、もう一つの物に対する要求は見られない(もう一つの物に対する欲求は、人間では生後7カ月頃に見られるが、この欲求はオランウータンでもチンパンジーでも出現しないと言われている。つまりこの欲求があるかどうかが類人猿と人間を分ける決定的な要素の一つだと言われている)。

I生きたうさぎの赤ちゃん
いつもは抱いてかわいがるようだが、この日は興奮して上手に抱かなかった。

Jひも
2mのひもを鉄棒にかけて様子をみたが、それにぶら下がることはしなかった。

K両手に小さいプラスチックボールを持たせて、タオルを頭にかける(視野をさえぎる)
(1回目)一個落として、タオルを払いのける。
(2回目)二個とも離さず払いのけた。

<前回(1月3日)と変わったこと>
★カップの中から積み木、より小さいカップをつまんで出した。
★顔にかぶせたタオルを払いのけるとき、前回は両手の積み木を落としたが、今回は両方ともは落とさなかった。
★ゴリラのぬいぐるみとあきずに遊んだ。

プラスティック果物模型をかごから取り、口に持っていきなめ、かごに入れる(と言っていいかな?)。また、模型を見ながら落とす。

<まとめ>
カップの中から積み木やより小さいカップをつまみ出すというBの行為は、定位的操作といえるのではないか。→いえない。検査その5を参照。
また、Kの2回目で見られた両手でボールを握ったまま顔に掛けたタオルを払いのけた行為は、外界との間に三つの結び目をつくることができているのではないか?(これは人間では11カ月頃見られる)
もう一つ、Hゴリラのぬいぐるみと非常に長い時間じゃれて遊ぶというような行動は今まで見られなかった。このような一つのものに対する持続的な執着は次のステップへの準備となるのではないか?

3.JPGrPa3.JPG (44607 バイト)   さくらの家族、2000.2.5撮影
左から、生まれたての赤ちゃん(2000年1月21日生、オス)、母親のとみこ、父親、さくらの妹        

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