インバック(Imbak Canyon)での予備調査、2013年3月15日〜3月23日

現地共同研究者であるワイディ氏に勧められて2013年3月、インバック渓谷へ予備調査に行くことにした。
インバックはサバ州のほぼ中央部にあり、ダナムバレーの西約80kmに位置する。
Mt. Kuli Research StationはダナムバレーのBRLやDVFCよりは少し標高が高いが、BRLやDVFCの丘陵部の標高と変わらない。しかし、Imbakの丘陵部の標高は高い。
BRL:190m、DVFC:180m、Tampoi Camp:140m、Mt. Kuli Research Station:295m、Kuli Water Fall:440m。

インバックの位置

インバックへのアクセス

インバックへは2011年6月21〜24日に京大のメンバーが調査に入っている。
その時の報告によると、
「ヒゲイノシシ、スイロク、カワウソの痕跡や、テナガザル、ジャコウネコの一種を観察することができた。オランウータンに関しては、各所に独特の体臭が漂う場所があり、おそらく少数であろうが生息している様子がうかがえた。」(田島知之)
「カワトンボ1種を含むトンボやチョウ数種、立派な板根を持つ大木やシメコロシノキ等の植物を確認したが、動物はほとんど見られなかった。同保護区のキャンプから徒歩5分の場所にある結実木では、朝方及び夕方から夜間にかけて、ミスジパームシベット、ビントロング、果実コウモリ、サイチョウを含む鳥類数種を観察出来た。ここではホタルも観察出来たが、日本のものとは異なり、点灯時間が短いものや、一度に明滅を7〜8回繰り返すものがあった。同保護区内にあるBukit Buruang(「クマ場」の意)への道中では、ミューラーテナガザル、マレーグマの野犬の様な鳴き声と巣穴と思われる空洞を確認した。また、マメジカのものと思われる糞塊を1つ確認した。」(澤栗秀太)
「インバックキャニオン自然保護区は、これから整備をしようという保護区である。潜在的には多様な動物が生息できそうな環境であるが、過去のハンティングの影響のためか、動物をあまり見かけなかった。動物の密度が低いだけでなく、警戒心が強いことも原因になっているのかもしれない。」(杉浦秀樹)

インバックにテナガザルがいることは間違いなさそうだ。
現地に入る前、3月15日にヤヤサンサバを訪問してワイディ氏と打ち合わせをした。
そして、Tampoi Base CampとMt. Kuli Research Stationの2か所で調査をすることにした。

その結果、
(1)Tampoi Campでは、
行ってみたら確かにテナガザルはいっぱいいた。ただし人なれしていないので追跡は容易ではなかった。Tampoi CampそばのTampoiグループを5日間計15時間切れ切れに追跡した結果では、縄張りがダナムバレーの群れと比較して小さいと予想された(ただし見失うことが多かったので確実ではない。今後の調査が必要である)。
また、雄は毎朝コールした。鳴き交わしも一度確認できた。縄張りが小さいと歌の頻度があがるのかもしれない(これも今後の課題である)。
オランウータンには一度も遭遇しなかった。果実はTampoi Camp周辺で少なくとも5か所実っていたがオランウータンは見なかった。巣も目撃できなかった。同じ果実を食べるオランウータンがいないとテナガザルの密度が高くなるのかもしれない(これも今後の課題である)。
(2)Mt. Kuli Research Stationでは、
2日間の滞在ではあったが、Tampoi Campと同じくテナガザルの歌は周辺から多く聞こえてきた。Research StationそばのKuliグループを見つけたが30分しか追跡できなかった。警戒心が非常に強い。
オランウータンは見なかったがサイチョウは頻繁に目撃できた。そこで、オナガサイチョウの空中衝突を目撃しビデオに撮ることができた。これは非常に珍しいらしいので、日本動物行動学会の映像データベース(MOMO)にアップした。
http://www.momo-p.com/index.php?movieid=momo130402rv01b

サイチョウが空中衝突した直後

サイチョウもビントロングもオランウータンと同じ果実を食べるので、大量に果実を食べるオランウータンがいないとこれらの動物も増える可能性があるのかもしれない(今後の課題である)。
インバックではオランウータン(の子ども)の捕食者であるウンピョウがカメラトラップに頻繁にかかっているそうだ。ウンピョウが多いのが原因でオランウータンが少ないのかもしれない。また、過去のハンティングの影響でオランウータンが少なくなったのかもしれない。オランウータンが少ない理由も気になる。
(3)ダナムバレーとインバックでテナガザルの歌に違いがあるのかどうか、行動の違いも含め比較検討したい。

このように多くの課題が出てきたので、この秋に再度訪問して調査する予定である。

調査の記録
3月15日(金)
11:30頃ヤヤサンサバを出て、ラナウのKFCに13:34着。14:00にラナウを出て19:35にTampoi Base Campに着いた。運転手はIsmailとMel。道はよく乾燥していた。しばらく雨が降っていないらしい。

Telupidの近くの道路、どこまでもパームプランテーションが続く

TelupidでIsmailが揚げバナナを購入

Imbak村を通過

Tampoi Camp手前の橋

到着後すぐ夕食を食べ、現地責任者のPius氏と打ち合わせをした。そしてEddyがレンジャーとして付いてくれることになった。Tampoi Campの電気は8:00〜12:00、14:00〜16:00、18:00〜24:00と細切れに供給される。

Tampoi Campのメインロッジ

泊まった宿舎

その横のホステル

Tampoi Campには数十人のスタッフが住んでいて、夕方の電気が供給されない時間帯はみんな木陰に出てきて語らいながらバドミントンの試合を楽しんでいる。スタッフと我々ゲストの宿舎がくっついているので、彼らと自然に交流ができる。それがここのいいところだ。

夕方のバドミントン場

憩いのひととき

子どもたちもいる

3月16日(土)
朝4時半起床、5時に出発。前夜雨なし。星が出ていた。月はなし。5:21に周辺でコール開始。Camp前の広場で録音。全部で8グループが鳴いていた。明るくなって道が分かるようになったので、一番近い声のする方へ行ってみると、すぐ近くのヘリポートの横にいた。それから録音継続。この群れをTampoiグループと名付けた。大人雄のコールだった。6時15分に終了し、2個体(若雄と若雌)が北へ動く。それからまた前の歌った地点に戻り果実を食べる。
それから近くでduetし、また北へ。途中で東に移動し見失う。5人家族(大人雄、大人雌、若者雄、子ども雌、赤ん坊)を確認。GPSでトレイルをなぞる。12時過ぎにCampに戻る。ずーっと晴れていた。部屋は37℃まで上がる。夜でも部屋は26℃ある。

ゾウが泥のついた身体を木にこすりつけた跡があった。

Imabk River。下流側を見ている。右側の森がが調査地。

Eddyとランチ

メインロッジには水とコーヒー紅茶が常時完備されている

3月17日(日)
4時起床、5時に出発。少し地面が濡れている。出るときに星が出ていたがしばらくするとくもりに。Camp前のメインロードでEddyと待つ。5:26遠くで2グループが北と南西でコール。それ以外に西からも5:50コールあり。この日は4グループのコール。5:40からTampoiグループ の大人雄が歌を開始、6:10まで。かけつけて録音する。5:50頃西からもコールあり。6:17〜7:30まで小雨。ヘリポートそばの果実を7:06〜7:30まで食べた後、7:32〜7:40duet。その後南東に向かう。速い。8:25と8:35に移動順序が確認できた。雄→若雄→こども雌→母子。2個体を追いかけたら道路を横断し南へ。8:50に果実のある木へ。そこで道路北側からduet開始。9:15〜9:25。そこでEddyと分かれてチェックに行ってもらう。Eddyが道路北側で9:40母子を見つけるが10:00見失う。13:35まで朝のヘリポート横の果実の木で待つ。Eddyは森の中をチェック。成果なくCampに戻る。

ヘリポート横の果実

3月18日(月)
4時起床、5時に出発。くもり、前夜雨なし。メインロードで待つ。5:22南方より雄の歌。遠い。コールは多いが数は確認せず。5:28ヘリポート付近で雄の歌開始。Tampoiグループの若者雄の歌だった。我々の足音に反応し歌を止める。すると、南の道路付近から今度はTampoiグループ大人雄の雄の歌が聞こえてきた。若者雄はジャンプしてから気配がなくなった。すると今度は先ほどの南の道路沿いでduetが始まった。6:50〜7:00。すぐに駆けつけるが、森の中へ入っていって見失う。それからEddyは付近をチェック。私はヘリポート横の果実を中心にKeluanトレイルの西側沿いをチェック、Eddyは東側をチェックするが見つからず。結局追跡は失敗。たぶん、Keluangトレイルの南東にあった赤い大きなFigに行ったのだろう。このFigを7:15に見つけていたのに、そこで待たなかったのがミス。メインロード沿いにも小さな赤いFigが実っていた。
果実が少ないのでオランウータンが住めないのか?いや違う!果実は多い。

赤い大きなFig

9:30頃から晴れ、後は快晴に。昼にCampに戻る。夕食時19:30小雨、20:40ちょっと降ったがすぐ止む。これで雨は3回目。

3月19日(火)
4時起床、5時に出発。朝、晴れていたがすぐくもり、前夜小雨あり。5:33、西から雄の歌開始。この日の雄のコールは3つ。5:35〜6:00、Tampoiグループ若者雄が道路沿いで歌う。その後森の中に移動。6:10Eddyがトレイル沿いの赤い大きなFigのところで食べているTampoiグループを発見、私も合流。食べ終わると6:45〜6:55、duetする。それが終わった頃若者雄が来てFigを食べ始める。7:10に母子と他のメンバーが道路を渡る。それをEddyが追跡するが、大人雄は私が道路で待っていると渡ることができずにうろうろしていた。すると、道路を挟んでduetが始まった。7:30〜7:40。その後雄は森の中に消えたが、しばらくして道路を南に移動し道路を横断した。そこで見失ったが、17日に確認していた果実のところへ行くと9:10〜9:20食べていた。食べた後、西へ移動し9:57〜10:29休息。さらに北へ移動し11:00道路を横断したが、そこで見失った。12時に戻る。晴れ。Eddyは赤い大きな実のところを張っていたが来なかった。

3月20日(水)
4時起床、5時に出発。前夜雨なし。星がいっぱい。晴れ。月なし。5:29雄の歌開始、北西方向対岸で。かけつけるとこれは対岸Gで、5:41にTampoiグループの若者雄?(ぼそぼそ音)がコール開始し、このグループと鳴き交わす。6時頃には5+αグループが歌う。大人雄が近くで少しだけ声をあげた。6:04に歌い終わり南へ移動。対岸Gはまだ歌っていた。6:45〜7:00、Tampoiグループはduet。その後折り返し北へ、そして東へ高速で移動し、トレイル沿いの赤い大きなFig で7:20〜7:43食べる。その後西へ移動し8時過ぎから道路そいで果実を食べる。そこで東へ移動したが9:30見失う。その近くに赤い小さなFigが実っていたのでみんな必ずそこへ来るだろうと(実は1個体先に来て食べていた)、下に行って採取していううちにどこかへ消えてしまった。人なれしていなテナガザルの真下に行ってはダメというのが教訓。

Kuli Research Stationに向け林道を走る

昼食後14:40Tampoi Campを出発。林道を約1時間走る。運転手のIsmailとMel、レンジャーのEddy以外にコックの若者ともう一人が同行。林道の終点で車を降り15:40快晴の中をMt. Kuli Research Stationへ向かう。1時間20分かかり17:03到着。標高294m。すでに数人のレンジャーがいて小屋の修復作業をしていた。すぐ川に飛び込んで体を洗い洗濯もする(シャワー、水洗トイレ完備だが)。夕食はパキス料理。チキンもあってごちそうだった。こちらは18時過ぎから電気がつき21時に消灯。あとはランタンかローソク。天気は一日快晴だった。なお、Kuli Stationにはスタッフは常駐していない。

17:03、Kuli Research Stationに到着

Kuli Research Station、背後の森で調査した。

2月に象が破壊した施設を復旧する。

川向こうに見えているパキスを採取して食材にする。

パキス炒めと目玉焼き

3月21日(木)
4時起床。5時から西側の森で待つ。前夜雨なし。星少しくもり。明け方寒かった。たぶん20℃くらい。5:07周辺で雄の歌開始。西南西方向から。あと次々と歌い始め、四方から7個体確認できた。6:12頃すべての雄の歌 終了。4番目に歌った雄が近そうだったので接近を試みたが終わってしまった。ただし、ここ2〜3日象に壊された施設を復元する作業がされていて騒音が大きかったために近くにいなかった可能性もある。続いて6:21、7:06、7:23とduetが北と東から聞こえてきた。7時45分にstationに戻って朝食。パンと目玉焼きにSEDAP麺。
8:36に小屋を出発。Kuli Water Fallへ向かう。以下は画像を見て。素晴らしい原生林だった。9:45動物の新しい糞(ビントロング?)を路上で発見。滝ではゆで卵とハンバーガー2個、それに持参したTiger Beerを川で冷やして飲んだ。うまかった。帰りは滝11:42発で13:12小屋着。すぐ川に飛び込んだ。夕食は18:30。パキス炒め、目玉焼き、ごはんにSEDAPの即席ラーメン。

滝へ向かう道、よく整備されている。

インバックの原生林

大木がある

ビントロングの糞?

滝に到着

Eddyと2人で記念写真

弁当のハンバーガーとゆで卵

滝で冷やしたタイガービールで乾杯

帰ってすぐ小屋の前の川で水浴び

3月22日(金)
4時起床。5時から西側の森で待つ。前夜雨なし。快晴、満天の星。明け方昨日よりさらに寒かった。20℃を切っていたかも。5:25雄の歌開始。雄の歌は3つ。近くでは一つもない。ところが、duetは6:12から8:25まで8つも確認できた。そのうち3番目に6:52から始まったduetが近かったので接近してみた。方向は南南東。Kuli Stationから500mほどのところで7:00に発見。3個体だった。子供は雌だ。しかし7:30に見失う。全く人なれしていない。帰る途中オナガサイチョウ(Helmeted Hornbill)の空中頭突きを7:50〜8:40まで観察してから9:00にStationに戻り朝食。焼き飯、目玉焼きにSEDAPの即席ラーメン。それから午後の出発までゆっくり休憩した。帰りは速く歩いて14:00に出てTampoi Campに16:00着。

Kuli Station出発前に記念写真

3月23日(金)
4時起床。前夜雨なし。星がいっぱい。しかし遠くで稲光あり。5:09道路で待っているとすぐそばでTampoiグループの若者雄が歌い始め、途中で50m西の大人雄も歌う。しかし鳴き交わしにはならなかった。この歌は6:13まで続いた。周辺ではあと4個体が歌っていた。歌い終わると道路北側の赤い小さなFigに大人雌が来て食べ始め他のメンバーも近づいてきたが私がサンプルを取りに行き下をごそごそするといやがって全員北へ移動しそこでduetを6:35〜6:49うたった。そこで調査を終了しCampへ帰る。

メインロード沿いにあった小さく赤いFig

9時20分にCampを出て、途中ラナウで昼食をとり、キナバル山を麓から観察して、コタキナバルには5時過ぎに着いた。

Tampoi Campでお別れの記念写真

HPtopへ

inserted by FC2 system