テナガザルの雄は鳴き交わす

ミューラーテナガザルを研究していて一番面白いのは音声です。SAPA・雄の歌は3.7秒(平均)のフレーズが12.7秒(平均)の沈黙を挟んで一日に30分(平均)ほど繰り返されるのですが、その沈黙の部分に隣の雄のフレーズが挿入され、お互いの音声が交互に繰り返されます。
下図はある鳴き交わしの一部をソナグラムで示したものです(太枠:SAPAグループ雄、点線枠:隣のDANUMグループ雄を示す)。
この鳴き交わしは2004年8月3日の朝5:48から縄張り境界付近で起こりました。


このように隣り合うグループの雄は交互に歌いました。
これはヒトの会話の構造と同じで、話者交代(ターンテイキング)といわれます。

ところで、ミューラーテナガザル雄の音要素はwaとooの二つです↓。



ここで面白いのは、フレーズを構成する音要素(waとoo)の並びが一定でなくフレーズごとに変化することです。上の例でも3つのフレーズが全て違っています。
ワワワオ、ワワオワオオワオ、ワオオワワワワワと。

もし音の並びを変えることによって違った意味を表現しているとすれば言葉に非常に近いことになります。しかし、テナガザルのフレーズがヒトの言葉の単語のようなシンボルを表現しているかどうかは分かりません。何らかの情動を表現しているだけかもしれませんが、仮にそうだとしても、音の組み合わせを変えて異なった情動を表現するような動物は珍しいでしょう。
いずれにしても、このようなフレキシブルな歌から言葉が誕生したのではないかと考え、研究を進めています。

文献:
Yoichi Inoue, Waidi Sinun, Shigeto Yosida, Kazuo Okanoya (2013), Intergroup and intragroup antiphonal songs in wild male Mueller’s gibbons (Hylobates muelleri), Interaction Studies, Vol. 14(1), 24-43. Abstract

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