ダナンバレー  2008/7/31(木)〜2008/08/11(月)

はじめに
6/12、現地でオランウータンを調査されている久世濃子さんから下記のメールが届いた。
「BRLのガイド(エンディ*)が、サパ・トレイル(ブリッジと王様の家の間*)でギボンのコドモ (雄)の死体をみつけたそうです。みつけた時点で、すでに腐敗も始まり、オオトカゲなどにも食べられていて、 死因等はわからなかったそうです(遺体も回収しなかった)。その後、サパ・ファミリーのオトナ雄が一頭だけでいるのが観察されているので、死体が発見された場所と前後の状況から、死亡したのはサパ・ファミリーの息子だろうと推測されています。」
*は後に判明。また、死体発見の時期は、イスナデルによると4月上旬だった。

1999年には7個体いたSAPAグループはとうとう1個体になってしまった。
これまで私は大人雄の音声を継続的に録音してきたので、最後まで残った大人雄・シギューが死ぬまでは何が何でも追跡を継続しなければならないと決意している。
「テナガザルの歌が状況(行動文脈)によってどう変化するのか?」それをテーマにしてきたので、1個体になった現在の歌も知らなければならない。独りぼっちのテナガザルがどんな行動をし、どんな歌をうたうのか?
それが今回のテーマだった。

そういうわけで、かわいそうなシギューに会いに(励ましに)、BRLへ出かけた。

調査の概要と結果
隣のDanumグループを私が、シギューを吉田さん&Donnyが追いかけることにした。
そして私が見失った時は、吉田さんたちと合流することに。
目的はいつものとおり、行動観察(10分おきの行動タイムサンプリング)しながら音声を録ること。

私のDanumGの追跡は難航した。
また、シギューの音声はなかなか録れなかった。シギューが歌わなかったから。
シギューを7日間連続的に追跡したが、全く歌わなかった。それで、追跡を一日延長した。

テナガザルが1週間も歌わないというのは異常事態だ。もし、歌の機能が縄張り維持なら、歌わないとおかしい。
ということは、そうではない可能性もあるということ。
家族がいるから歌うのかもしれない。
8日目も歌わず、これは「歌を忘れたテナガザル」なのかと思っていたら、9日目の朝になって、やっと歌ってくれた。
それも1時間半のロングな歌を。

音声を一つだけでも録れて安心した、というより、孤独で落ち込んでいるテナガが歌ってくれてホントに良かったと思った。
歌えば、元気もでるだろうし(これはヒトと同じかも)。

行動範囲は以前の半分以下と狭くなり、よく休んだ。
これは、森の中に果実が少なかったということも影響しているかもしれない。しかし、果実の少ない年は以前にもあった。その場合でも、これほど極端なことはなかった。独りぼっちで活動意欲が落ちているのだろう。
”クゥ””クゥ”というようなつぶやき声を出しながら、同じ所をぐるぐる回るというような異常行動もあった。
テナガザルにとって、独りぼっちというのは精神的にかなりこたえるんだな、落ち込むと歌もうたえないのか、と感じられた。

なお、録音はRoland-R09、マイクはaudio-techinca-ATM57を使用した。

日程と記録
7/31(木)、KL経由でKKへ。ラブアン経由なので時間がかかる。KL空港内の両替所で両替したら、1RM=34円だった。
宿はホテルShangri-la。センターポイント東にある中級ホテル。街に近いのはいいが、通りを横断するのが一苦労だ。

8/1(金)
7:30朝食を吉田さんと食べる。9:00ロビーに迎えに来てくれたPan-Borneoのスタッフとモスクの隣にあるUPENへ。調査ビザ取得のための面接を受ける。面接官はGwendelenさん。彼女は気むずかしく、ここを通過するのが難関だ。
熱意を込めたへたくそ英語でなんとか納得してもらってイミグレーションへのレターをもらった。

 ホテルの裏通り

11:30、吉田さんと動物園(Lok Kawi Wildlife Park)へ。ホテルから往復RM100。
テナガザルの音声は録れず。
サイチョウがそばまですり寄ってきた。動物との距離が近い。

 サイチョウ 

午後の便で着いたかみさんも合流し、ホテルの裏通りにある中華料理屋で夕食。
いっぱい食べてビールも飲んで全部でRM50以下だった。

コタキナバルではここ4日間ほど雨が降っていないそうだ。道路もからからに乾いている。

8/2(土)
7:57ラハダトゥ着。定刻。うす曇り。
こちらでも1週間雨が降ってないそうだ。

 ラハダトゥ空港、MASが就航している

昼過ぎにロッジ(BRL)について、昼食後14:00からホーンビルトレイルとサパトレイルに別れてパトロール。何もない。15:30にメインロッジの前に戻ってお話ししていると、15:44ドニーがシギューを発見。何と、ロッジの真ん前の木にいた。何という幸運。
その直後、15:50から激しい雷雨があり17:30に止む。18:20に同じ場所に座って寝ているのを確認。雨でも動かなかった。

8/3(日)前夜と明け方に雨あり。8/1が新月で、8/9が上弦なので、今回の調査中、明け方の月明かりはなかった。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私はDanumトレイル375m地点で待機。吉田さんとDonnyはシギューに張り付く。ガスっている。
周辺でコールなし。6:30にロッジへ戻る。
6:40シギューはロッジ西のデラックスハウス(屋外にジャクジー、部屋にはエアコン付き・・・ばかげている!)下の木でTalisai(Terminalia citrina )を食べていた。

 Talisai 

 Delux House

7:35朝寝ていたロッジ前の木に戻る。赤い若葉を食べる。快晴。
ロッジ前に長時間滞在した。10:17にネイチャートレイルへ向かう。
この間、6:58-7:25、9:06-9:16と対岸でduet(greatcall)あり。
また、9:48にはヘビを見た。

 体長1m、お腹の膨れたヘビ

11:20リスを追いかけた。遊び相手(シクサイ)がいなくなったのでリスでもいいかという感じ。12:06メインロードを東に渡りSQ南西角へ。若葉と蔓を食べ、13:33再びメインロードを横切りネイチャートレイルのTalisaiの木へ。若いオランウータンがいた。

 Talisai(Terminalia citrina

14:32まで食べて、14:35隣の木で動かなくなった。晴れ。

8/4(月)前夜雨なし。曇り。冷え込む。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私はDanumトレイル375m地点で待機。吉田さんとDonnyはシギューに張り付く。
5:16ロッジの対岸付近からコールあり。DanumGもシギューもコールなし。
6:15Talisaiの東で吉田さんとDonnyに合流。6:20リスを追いかける。
6:50-6:57Danum対岸からDuet。しかし、シギューは反応せず。
そのすぐ後、王様の家の対岸付近でDuet、7:12まで。
ロッジ前に7:45-9:10と滞在。

 ロッジ前で8:03

サパトレイル方面に移動し、12:30-13:50イチジクの木に滞在。

 14:30、Kondolon?

ジェネレーターの東で15:25動かなくなる。
一日、雨なし。夕方も快晴。

8/5(火)前夜小雨、星が出ている。部屋にネズミが出没して寝不足。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私はDanumトレイル525m地点で待機。吉田さんとDonnyはシギューに張り付く。
5:38ビューポイント方面でコールあり。
昨日食べたKondolonの木に6:55-7:05滞在。そこから北に向かい7:40にはマカクと戯れる。
7:50見失う。ジェネレーターの北東。
3カ所で張り込み。SQ東イチジクとメインロード550m地点とネイチャートレイルTalisaiで。
13:20ネイチャートレイルTalisaiで発見。
ルートとしては二つ考えられる。SQの北を迂回したか、サパトレイルの南寄りを移動したか。
Talisaiで採食後、南に移動しメインロッジ西で15:50動かなくなる。しかし、翌朝ここにはいなかったので、さらに移動したと考えられる。
夕方曇ったが、一日カラッとしたいい天気だった。

8/6(水)前夜雨なし。星が出ている。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私はDanumトレイル300m地点で待機。吉田さんとDonnyはシギューに張り付く。
5:46遠くでかすかにコールが聞こえる。北から。遠すぎて近づけそうにないので諦める。6:05には聞こえなくなった。その時、遠くでオランウータンが見えた。
ロッジ前に戻る。Donnyがシギューの姿が見えないという。4日連続で歌わなかった。
それで、ロッジ前、SQ東イチジク、ネイチャートレイルTalisaiの3カ所に別れて張り込むと、7:00にSQ東イチジクですぐ発見。食べていた。もう十分食べた後のようで7:12移動開始。ということは、このイチジクの近くで寝たか、あるいはロッジ前で寝て高速でイチジクに移動したか、どちらかということになる。
7:11Danum対岸GのDuet開始。7:26まで。その後、別グループのDuet開始。Duetは連鎖する。
Duetに刺激されたか、音声の方向に高速で移動し、7:17にはネイチャートレイルに着く(たった5分で250m移動した)。
8:05にTalisaiに着き、リバーサイドビューへ、そしてまた8:30Talisaiへ。8:45に移動し、9:20ネイチャートレイル曲がり角でCreeperを食べる。

 Creeper

9:40にメインロッジ西のTalisaiへ、9:55まで滞在。そこから、東へ向かいメインロード東で10:50-11:35まで昼寝。12:00-13:05王様の家前の木で若葉を食べながら休息。13:55SQ東イチジクへ、14:20まで。北へ移動し、15:45SQ従業員宿舎裏で寝る。
一日よく晴れて雨降らず。

8/7(木)前夜雨なし。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私はDanumトレイル400m地点で待機。吉田さんとDonnyはシギューに張り付く。
5:20道ばたでがさがさという物音がするので懐中電灯で照らすとマレーセンザンコウだった。体長50cm。脅かしても逃げず、ゆったりと木に登っていった。
センザンコウは密漁の対象になっていて絶滅が心配される。
ナショナルジオグラフィック ニュース「冷凍センザンコウ14トンを押収、インドネシア」
5:23ロッジ方面からコールあり。
また、5:55からDanumGがコール開始。西方でかなり遠い。しかし、チャンスなので森の中に入ることにした。525m地点からヘッドランプを頼りに音の方へ向かう。6:20に真下に着く。6:30にコールは終了し、30mほど南でDuet Songが開始されたのでそれを録音する(6:20-6:28)。
気配はあるが姿が見えず。音声からみると、DanumGには少なくとも雄2個体と雌2個体がいる。

 DanumG雌のgreatcall

7:00から動きがなくなり、7:55まで待機したが諦めてトレイルへ。南の方角に歩いたら1300m地点に出た。
せっかくここまで来たので、Danumトレイルの奥まで歩いてみることにした。
2000m地点まで行って折り返した。

 8:33、Danumトレイル1900m地点

9:15にネイチャートレイルまで帰って合流。メインロッジ前の木に10:00-10:30、再びネイチャートレイルを北上し10:50-11:35まで横になって昼寝。そしてTalisaiへ、14:05-14:35滞在後、Danumトレイルとホーンビルトレイル分岐点の南で14:50寝る。
夕方16:00から17:30まで雨。
この雨に刺激されたのか、その夜、ロッジの木道に体長2m胴体の直径が5cmの巨大な毒蛇が出現した。あやうく踏んづけるところだった。

 20:00

8/8(金)夜には雨なし。晴れ。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私はDanumトレイル400m地点で待機。吉田さんとDonnyはシギューに張り付く。
5:45はるか西でかすかにコールが聞こえるがすぐ終わる。コールはこれだけで実質ノーコール。
ひょとしてと考え600m地点(5:50)、675m地点(6:15)へ移動するが、コールがないのでネイチャートレイルTalisaiへ戻る。6:20-6:50滞在。6:40遠くでgreatcall、7:10一瞬見失うが、大木北で7:15発見。7:22-7:30Danum対岸GのDuetがあったが、反応せず。続いて、7:40-、7:55-8:05とロッジ東方からDuetがあった。
8:00頃、ネイチャートレイル西の川沿いにいたが、突然Danumトレイル方面に向かって猛スピードで移動した。Danumトレイル方面からの声に反応したのかもしれない。8:35に375m地点に、そこから北に向かい、8:50に方向を変えホーンビルトレイル125m地点に11:50着。そしてネイチャートレイルTalisaiに12:22-13:05、14:30-14:55と、この日は3度もTalisaiを訪れた。ネイチャートレイル西で15:15に寝た。
この日は14:40-14:50に小雨が降った以外は雨は降らず。
15:35部屋に戻ると、部屋の前にレッドリーフモンキーがいた。

 部屋の前にいたレッドリーフモンキー

8/9(土)前夜雨なし。晴れ。上弦の月。
4時起床。5時にロッジ下に集合。私とDonnyでシギューに張り付く。
5:35ビューポイント方面でコールあり。
6:06南に動き出す。6:15にホッホッと声を出したので歌い出すかとマイクをセットしたが歌わず。これで7日連続で歌わず。
6:34ロッジ前大木で折り返し、ネイチャートレイルTalisaiに8:45-9:00、それからSQ西をぐるりと廻って、またネイチャートレイルTalisaiに12:55-13:26来た後、東へ移動しSQ東のイチジクに15:00-15:20滞在した後、ブリッジ南で15:21寝る。

 12:58、Talisaiの下で

昼間は快晴だったが、15:30から曇り、16:45-20:20まで雨がシトシトと降った。

8/10(月)前夜は雨あり。深夜には降らず。曇りだが、5:20小雨。しかしすぐ止む。
5:55、枝の落ちる音で動き出しが分かった。5:55ビューポイント方面でコール開始(6:30まで)。SQ東のイチジクへ、6:11-6:30滞在。その後猛スピードでネイチャートレイルへ。6:45にメインロードを横切る。20m/minくらいのスピードだった。この日はTalisaiへは行かず、ネイチャートレイルを3回転ほどぐるぐる廻った。この時、クゥクゥという小さい声を出した。

 10:10、クゥクゥ声

そして10:35メインロードを東に横切った。この頃から晴れ、12時には快晴になった。
SQ東のイチジクで12:45-13:05採食。その前の12:10-12:42にはSQ道路沿いで昼寝。
さらに北へ移動し、SQ北で14:45寝る。
夕方夜とも雨なし。

8/11(火)前夜雨なし。ガスっている。
5:38シギューがコール開始。9日目の朝に初めて歌った。7:08まで。90分のロングコールだった。
この歌は現在分析中。
歌だけ録音して7:30にロッジへ帰る。晴れ。
これで調査終了。

8/12(水)8:30にロッジを出て、途中KKに立ち寄り、8/13(木)早朝に関空着。

まとめ
(1)全ルート(8日間)
 
このように、南半分に偏っていた。果実も少なかった。歌は1カ所のみ。
(2)Activity Budget(8/3-8/10)

groomingはself-grooming。
(3)起床、就寝、移動距離、歌の平均
起床:5:36
就寝:15:13
移動距離:1430m
歌:9日間で1回のみ、一日平均10分(これは過去最低)

追加
BRLでは多くのスタッフが辞めていた。
ショップにいたアルミさん、その主人、ウエイターはカムランとあと2人、コック1人(背の高い人)、ガイドのパリン、エンディ、アジズ、ウイリアム、ハウスキーパーの人も何人か見かけなかった。
残ったのは、コックのスハイディ、ガイドのワンコン、ビビアン、ラッフェル、イスナデル、レイボールド。
新しいスタッフがいっぱい採用されていた。ロッジで大変動があったようだ。その原因は正確には分からない。
古くからの友人が去っていって寂しい。

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