ダナンバレー 2004/7/30〜8/10 No1

今回のダナンバレー行きは関空からの直行便で7/30にKK(コタキナバル)へ。12:00発16:10着、約5時間で到着。翌日昼にダナンバレー入り。9泊して、8/9午後ダナンバレーを出て、KK8/10深夜01:15発、関空に07:15着というもの。今回も航空券・宿の手配はジスコにお世話になった。
この春から関空からの直行便が週2便運行されるようになって、非常に便利になった。国内旅行の気分でボルネオへ行ける。KK到着が早くなったので時間の余裕ができ、食料品の買いだしができるようになった。センターポイント地下orタン・ダイナスティ・ホテル横のPlaza Wawasanに大きなマーケットがある。今回は、ライチ、青リンゴ、オレンジにパックジュースを購入した。

 再建されたブリッジ

<まえがき>
これで何回目になるだろうか。数えてみると9回目。合計61日間ダナンバレーに滞在したことになる。
その中で、テナガザルを追跡した(ほぼ全日の)日数は計32日になった。おかげで個体識別もバッチリできるようになった。

私のように短期間しかフィールド調査できないものにとって、ダナンバレーの環境はベストに近いということがだんだんと認識されてきた。ここでは毎日多くの人間が観光客として訪れている。観光客にはガイドをつけることが義務づけされているので、身勝手な人間の行動は厳しく制限されている。その結果、動物たちは人間に慣れ、怖がらず、近くに行っても逃げなくなった。これを「人づけ」という。

「餌付け」ではなく「人づけ」。
その利点について、先日の霊長類学会で、トーマス・シュトゥルーゼーカー氏は以下のように述べている。
「人間がサルや野生動物に餌を与えると、不自然な状態になり、野生動物の本当の姿は捉えることができない。人とサルの関係が不平等なものになってしまう。病気を持ち込む可能性もある。」と(京都大学農学部2回生・後藤龍太郎氏の「シュトルーゼーカーの屋久島・幸島の旅」より引用)。
野生のありのままの姿をこのように簡単に観察できる場所はそうはないだろう(例えば、スカウでは船からオランウータンを見つけ近づくとすぐに森の中に逃げてしまう)。
さらに”熱帯雨林原生林”という地球上で最も多様な生物が生存している森の中で調査できるというのも、ここの素晴らしいところだ。
調査中にこのような珍しいキノコを目撃することもできる。

 ビューポイントへの道沿いに生えていたキノコ(Dictyphora duplicata

今回初めて体長2mのコブラに遭遇したが、しっかり見届けるまもなく逃げていった。
蜘蛛の巣と蜘蛛。

 蜘蛛の巣がトラップになっている

 奥で待ちかまえる蜘蛛

今年はロッジ周辺の果実が豊富なのでオランウータンの個体数が多く、現在(2004/8)トレイルの範囲内に15個体も確認されている。
最初のうちはヒルの多いのがいやだったが、最近は全く気にならなくなった。ほとんどノーマーク(上を見上げていることが多く、下を見る余裕がない)なので、毎日血を吸われて血だらけになっている。首筋から入ってくるのが多く、胸、腕、お腹や背中をよくやられる。初めて吸血された瞬間には痛みがあるが、それを除くと無感覚だ。まあ、やられてもどうということはない。

※私の追いかけているテナガザル家族はSAPAファミリーと名づけている。4人家族で、名前は、父・シギュー、母・シカサン、娘・シウンド(6-7歳くらい)、息子・シクサイ(4歳くらい)。

<要旨>
何度も観察するうちにテーマがだんだんしぼられてきた。それは、テナガザルのコミュニケーション
中でも、音声によるコミュニケーションが面白い。あと、集団内における個体間のやりとり。
今回はそのどちらにも、注目すべき成果があった。

それは、朝の雄のソングのやりとり(縄張りを接している二つのグループが50mの距離を挟んでやりとりした)をバッチリ録音できたこと。しかも、あちらが歌う時にはこちらが黙り、こちらが歌えばあちらは黙るという風に歌うのが観察された。
これはテナガザルがソングによって何らかのやりとりをしていることを示している。
下図はそのやりとりを2分間抜き出した(正確には8月3日午前5時58分から6時までの2分間)もので、黄色が相手方の雄の音声を、赤色がSAPAファミリーの雄・シギューの音声を示す。
最後の一つを除いて全て重ならないように歌っていることがわかる。
そのやりとりの一部(MP3ファイル)。
大きく聞こえるのが、SAPAファミリー・シギューの声で、小さい声が隣の縄張り家族・雄の声。



もう一つは、父のシギューが遊び盛りの息子のシクサイ(4歳前後)とよく遊んでやっているのが観察されたこと。
追いかけっこ
とっくみあい。グルーミング以外のこのような触れ合いが観察されるのも珍しいだろう。
ある日(8月1日、11:06)二人が遊んでいて、シクサイが落ちた。

 父・シギューと息子・シクサイ
サルも手から落ちる!その動画(WMVファイル)
ご心配なく。シクサイは落ちたが、下に枝や葉が密集していたのでうまくひっかかって助かった。
なお、このような触れ合いは連日頻繁に目撃された。しかし、この遊びは父と子以外の組み合わせでは見られなかった。

あと、カニクイザル(Macaca fasicularis)との争い(やりとり)も興味深かった。

 にらみあい

母・シカサンとカニクイザル(ボスらしき大きなサル)との争いは互角だった(8月6日、8:51)。
その動画(WMVファイル)
これらの行動を中心に報告したい。

<ルート図>
今回もGPSを使用した。Map21ex
ただ、GPSのデータはあくまで参考として使用しなければならない。サルの経路と人の経路は同じではない(いつも真下で観察しているわけではなく、障害物があれば回り道をすることがある)。また、器械の誤差もある。特に熱帯雨林の内部でのGPSの感度は樹林に電波が遮られるため、平原での感度と同じようにはいかない。
例えば、下図は最終日にトレイルを歩いた時のものだが、細かくみると誤差がでている。特に、ロッジ北西のダナムトレイル沿い。でもまあ、大まかには正確と言えるだろう。標高や距離がすぐに表示できるのも素晴らしい。やはり正確なルートを作図するためにGPSは必須だ。
GPSデータによるトレイル

今回は、8月1日から、8月7日まで一週間連続的に追跡した。
これは、じつは並大抵のことではない。

朝の4時半に起きて、5時過ぎから寝ている木の下へ。この時間にはテナガザルはすでに起きているが、動き出すのは6時前後。動き出してから、寝床の木に着く3時前後まで、休みなく動きを観察して、見失なわないようにしなくてはいけない。ちょっとでも気を緩めると見失う。そのうえビデオ撮影&観察記載をしなくてはいけない。
要するに10時間労働ということ。
朝食&昼食はぬき。うまくトレイル沿いで出会えれば差し入れの果物が食べられるくらい。オールレーズンとするめ、それにKKのスーパーで買った青いリンゴが食料源。
最後の3日間は8:30〜12:00までDonnyに追跡を手伝ってもらったので、何とか体力がもったが、こんな生活はやっぱり1週間が限度だろう。

その全経路図をまず示しておこう。文字通り、血(ヒルの吸血による)と汗の結晶。

 全経路

一見して、ロッジ前の森を何度も往復しているのが見て取れる。ロッジ前に果実のなっている木が豊富にあったのがその理由だろう。
もう一つは、東側に一度、北側に二度訪れたことがわかる。これは縄張り維持のための偵察行動と考えられる。特に北側のグループとは50mの距離を挟んでソングのやりとりをしたので、緊張関係にあることがわかる。

ダナンバレー 2004/7/30〜8/10 No2

<行動記録>
8月1日(日)晴れ後くもり午後2時半から雨、満月

 ×は頻繁に訪れた果実のある木を示す

5:07、対岸のビューポイント方面でテナガザルが歌い始めた。Male solo songだ。するとそれに刺激されたか、5:17、その近くで別のテナガザルが歌い始めた。最初は”ホッ”から始まり、”ホッ、ホッ、ホーッ”とだんだん複雑になっていく。
結局、5:07に歌い始めた個体は6:04に終了(57分間)。5:17に歌い始めた個体は6:11に終了した(54分間)。
どちらも約1時間のコールだった。
こういうところ(開始時間は夜明け前で、約1時間同じような流れ<単純から複雑へ>でフレーズを変化させながら歌う)からテナガザルのコールは遺伝的にインプットされた機械的なソングだと言われるのだろう。
しかし、いちがいにそうとは言えない例もたくさんある。Male solo songは30分で終わることもあるし、途中にFemaleのグレートコールが割り込むこともある。Male solo songの開始時刻も、いつも夜明け前とは限らず8時から始まったり、Duet songも10時までに終了せず13:08から13:31まで続いたこともある。
また、群れが離ればなれになったとき、呼び合う合図としての短い声を出すことがある。これは低く小さい声の場合もあるし、短いsongの場合もある。
ともかく、テナガザルの音声は機械的でなく、場面によって使い分けられ、多様である。

Male solo song終了後しばらくして、対岸で6:40からDuet songが始まった(なお、これに呼応して6:45から隣のグループもDuet songを始めた)が、これはファ、ファ、ファという単調な連続音から始まるいわゆる”警告ソング”だった。これは6:54に終了。14分間。Duet songは20分前後続くことが多いが、このように短いこともある。

さて、コールの観察が終わり朝食後、ガイドのDonnyが部屋にやってきてテナガザルが従業員宿舎の横の木にいるという。あわててかけつけたらイチジクの木にいた。時刻は8:34。初日の朝からあっけなく見つかってしまった。うれしいような悲しいような・・・、いや喜ぶべきことだ。なお、このイチジクは実が大きく大好きなようで、7日間のうち5日も訪問した。あんまりおいしそうなので食べてみたら、まずかった!

 でかいイチジク

 イチジクを食べるシクサイ

それが地獄の始まり、いや楽しい追跡の始まりだった。このチャンスを失ってなるものかという強い気持ちで追いかけた。
しばらく移動するとフタバガキの種子のプロペラ部分を食べた。

 落ちてきたフタバガキ種子の食べかけ破片

 フタバガキ種子

9:53には父と子のグルーミングが観察された(12分間)。
次に10:42、Syzigiumの木にやってきた。10分滞在。この木も大好きで7日間で4日訪問した。オランウータン母子も一緒に食べていた。この実は周囲の皮の部分を食べる。

 Syzigium、左はかじった跡

10:55、カニクイザルとクリイロコノハザルがいる木にやってきた時、これらのサルとテナガザルとのやりとりが見られた。
テナガザルはカニクイザルに対して足蹴りしたが、カニクイザルは動じず。それに対して、クリイロコノハザルは追いかけられると逃げていってしまった。このような接触場面は何度か目撃されたが、この結果から、カニクイザルとは対等(ただし、小さい体のカニクイザルは逃げる)、クリイロコノハザルはテナガに対して劣勢ということになる。
はたしてこの争いが餌の奪い合いなのか、遊びの一種なのかよくわからない。餌の奪い合いをしなければいけないほど餌が不足しているわけではなく、十分満ち足りているので。
ところで、クリイロコノハザルは自分の尻尾を自分の手でグルーミングする。その場面の動画(WMVファイル) 
11:04、父と子の遊びが次第にエスカレートし追いかけっこやじゃれあいに発展した(前ページの動画参照)。

 握手もする(シギューとシクサイ)

11:42に川沿いのAlangiumの木へ。この木も7日間で5日訪問。オランウータンも大好きでよく目撃した。

 Alangium javanicum

 シクサイ(推定4歳)

来た道を戻り、14:45ねぐらの木へ。その直後、雨が降り出し隣の木へ移動したところで追跡終了。

8月2日(月)晴れ後くもり12:15から雨

 ×は頻繁に訪れた果実のある木を示す

早朝2時頃激しい雨が降った。こういう日はコールしない。6:04に対岸でコールしかけたがすぐ止む。
昨日最後に確認した木の下に5:30に行ったがいなくて、周囲を探したところ6:30に発見。7:03にイチジクの木で7:40まで採食。これが朝食といったところ。
それから9:50、スタッフ宿舎の裏にあるsyzigiumの木でちょっと食べてから、食べたり休んだりグルーミングしたりしながらゆっくりと移動し、12:15メイン道路の近くの木に来たところで激しい雷雨にあう。傘をさしながら見上げて12:30までは姿を確認したが、あまりの激しい雨に見上げられなくなり見失ってしまった。雨はその後、2時〜3時の間は止んだが、その後ずーっと夜まで降り続いた。
しかし、翌朝ホーンビルトレイル沿いで歌ってくれたので、移動経路を推定できた(上図点線部分)。
ジャンプ。足で枝を蹴り、その反動で飛び出す。その動画(WMVファイル)
四つ足で歩くこともある。

 四つ足で歩くシカサン

8月3日(火)晴れ時々くもり

 は北側に隣接する家族のコール地点を示す

昨日見失った地点へ向けてメインロードを歩いていると、5:48ホーンビルトレイルの方向でコールが聞こえたのですぐさま駆けつけると、SAPAファミリーの雄・シギューとその30m北側の木で隣接家族の雄がコールの掛け合いをやっていたので、
5:58〜6:59まで録音した。

その経過を詳しく説明すると、
SAPAファミリー・シギュー:5:48〜6:06までmale solo song
相手方家族の雄:5:48〜6:07までmale solo song、そこで相手方の雌が警告ソング、さらにSAPAファミリーの雌が:6:07〜6:46まで警告duet songを歌った後、再び6:51〜6:59まで相手方雄のmale solo songだった。

最初の18分間の雄のやりとりが、前ページの要旨で「あちらが歌う時にはこちらが黙り、こちらが歌えばあちらは黙るという風に歌う」と述べた部分に当たる。
私はこれは非常に重要な事実だと考えている。
例えば我々人間でも、雑踏の中でしゃべるとき実際は特定の相手としか会話していない。この雑踏の声を少し離れたところから録音したら、何がなんだかわからないだろう。
テナガザル・雄のモーニングコールの場面でも多くの個体が一度に声をあげていて、いったい誰が誰とどうやりとりしているのか分からなかった。しかし、今回の事実から普段のコールにおいてもテナガザルはある特定の個体と一対一でコミュニケーションしていることが推測される。

注目すべきことに、SAPAファミリーはこのソングの後、すぐ引き下がるのではなく、少し相手方領土に入り込んでから後退した。また、相手方はコール後すぐ北方に後退していった。
これらの事実から、SAPAファミリーと北側家族との間で昨年末以来縄張り争いがあり、SAPAファミリーが若干、相手側に優勢に争いを進めている(領土を侵略している)ことが推測される。これは今後の観察で検証したい。

その後、SAPAファミリーは南下して、9:57、Alangiumの木に着き、10:27まで30分間採食した。この木も大好きで、7日間に2日、それから滞在最終日の8月9日にも訪れた。
さらに、川沿いの中州にある同じAlangiumの木に11:11〜11:53まで42分間滞在して採食した。

 シギュー(左)とシカサン(右)

さらにロッジ前を通過して東に移動し、ここで父・シギュー&娘・シウンドと母・シカサン&息子シクサイの二人ずつ分かれて別々の木で寝た。後者の母・シカサン&息子シクサイの二人は15:30ねぐらの木に到着。
息子・シクサイは遊ぶときはお父さんとだが、寝るときはいつもお母さんと一緒だ。シクサイは推定4歳なので、まだお母さんに甘えているのだろう。その寝場所は、地上20mくらいの枝の上(木は約50mの高さ)で、枝の上に横になって寝た。いつも高木のてっぺんで寝るわけじゃない。

ダナンバレー 2004/7/30〜8/10 No3

<行動記録・つづき>
8月4日(水)晴れ時々くもり



5:10、対岸でコール開始。
5:47、シギューがロッジ前のメインロードからスタッフ宿舎への曲がり角の南東の木でコール(male solo song)を開始。ところが6分間で終了、すぐ東に移動し、100mほど東の木で寝ていたシカサン&シクサイと合流(シウンドはシギューの近くで寝ていた)。
ひょっとしたら、このコールは今からそちらへ行くから待ってろよというメッセージだったかもしれない。
フレーズの間隔が1分間に2回といつもより長かった。その声(MP3ファイル)

 赤い葉を食べるシクサイ

そしていつも通る道を移動し、イチジクの木(6:49〜7:20滞在)で折り返して、元の場所に戻り、さらにネイチャートレイル西の川沿いの中州の木(10:26〜11:14滞在)を通り、メインロード沿いの高木に着き(14:50)そこで寝た。テナガザルは泊まり木に着く直前にいつも果実を少し食べる習性がある。
その寝姿を道路から確認することができた。シカサンとシクサイが一緒に寝て、シウンドとシギューはそれぞれ別の枝で離れて寝た。その寝姿を下の写真で示す。17:00撮影。
シカサンは枝の分岐したところで横になって、両手はしっかり枝を握っている。シクサイもわかりにくいが、枝に背中をもたせかけて、両手はしっかり枝を握って寝ている。

 寝姿、下がシカサン、上がシクサイ

8月5日(木)晴れ時々くもり



月明かりで周囲が明るく、4:47に最初のコールが対岸から聞こえてきたので、あわてて出発。
昨夜泊まった木の下で待っていたら、5:05にコールが始まった。それを録音していると、5:32、近くで突然Sambar deerの大声がした。
Sambar deerは私が道路にじっと座っているのを見てびっくりして声をあげたようだ。その声(mp3ファイル)
それで、私だけでなくテナガザルもびっくりして、10分間コールが中断してしまった。5:42に再開したが、最後はシカサンのgreat callで6:05に終了した。
この日のコールは北隣接家族を意識したものだと考えられる。

6:16に移動を開始し、ロッジ前のいつもの果実の木をはしごしながら北東方向へ移動し、スタッフ宿舎南東のSyzigiumの木には8:04〜9:17まで、同じく東のイチジクの木には10:00〜10:25まで滞在し、同じく北東のSyzigiumの木には、10:57〜11:35まで採食した。だいたい食べた後におしっこ・うんちをする。そしてその近くの木で11:35〜12:35まで休憩・グルーミングしながら滞在した後は、猛スピードで北東方向に移動し、14:20、ほぼ縄張りの北東の端と思われる地点に着きそこで寝た。

この日からガイドのDonnyに追跡をつきあってもらうことにした。時間は8:30〜12:00まで。彼に荷物をかついでもらって、追跡は二人でやる。これだと私の疲労が少なくなるし、なにより観察に集中できていい。
実はこの時疲労がピークに達していてもしこの方法をとらなければ一週間連続追跡はできなかっただろう。Donnyに感謝。彼は非常に有能なガイドだ。決して見失わないし、テナガザル(だけでなく様々な動植物)の生態を知りたいという強い意欲を持っている。
なお、Donnyとの合流にはトランシーバーを使用した。

 シウンド

8月6日(金)晴れ時々くもり



5:55、対岸の遠くでコールが聞こえた。
6:22にシギューのホッ、ホッ、ホッという小さな声が聞こえた。そのコールはすぐ止んだ。シギューたちは北東に移動した。
しばらくして、シギュー、シウンド、シカサンの三人による掛け合いが始まり、母・シカサンと娘・シウンドの二人によるduet song (great call)が6:31から約20分間続いた。この時、最初に単調なファッ、ファッ、ファッという連続音は伴わなかったので、いわゆる警告ソングではなかった。なお、コール地点は移動経路の北東の端。
この場合は自分の縄張り内への侵入者がいたわけではないので、単に縄張りを主張したソングだったと考えられる。
このduet song (great call)は、北東方面に隣接する他家族を意識した縄張りソングではないかと考えられる。
これまでの観察から、duet song (great call)には、単なる縄張り主張の場合と侵入者に対する警告を意味する場合の二つがあり、その違いは、導入部(雄・雌の掛け合いか、雌単独の単調なファッ、ファッ、ファッという連続音か)にあることが明らかになってきた。
この時の最後のフレーズを下記に示す。


クライマックスにふさわしい長いグレートコールだった。その声(MP3ファイル)

6:51にコールが終了した後、しばらくじっとして周囲をうかがっていたが、7:12、もとの方角に引き返し始めた。そして猛スピードで400mほど移動した地点で、Syzigiumを7:53〜8:19まで採食した。さらに南西に移動し、そこでカニクイザルの群れと遭遇し、No1のページにアップしたトラブルが発生した。
また、この時森の中で体長2mのキングコブラに遭遇。一瞬ビビった。が、すぐ逃げていった。
また、Sambar deerにも出会った。森の中で出会うとかわいいものだ↓。

 Sambar deer

10:10〜10:35にはスタッフ宿舎横の大好きなイチジクの木に滞在し、さらに昨日も立ち寄ったスタッフ宿舎南東のSyzigiumの木には12:46〜12:56、ネイチャートレイル西の中州の木には14:20〜14:40と滞在し、採食・休憩・グルーミングした。そして、14:47ロッジ真ん前の大木に到着しそこで寝た。

 シギュー(左)がシカサンの頭をグルーミング(右足で頭をつかみながら右手で)

8月7日(土)晴れ時々くもり



8月3日以来雨は一滴も降っていない。まさに乾期。
5:43、対岸でコールが始まると、それに呼応するかのように5:45からシギューがmale solo song開始。しかし、対岸のコールが終わった6:18にはシギューも止めてしまった。33分で終了。ただし、最後にシカサンのファ、ファ、ファという短い連続音が入ったので、それが終わるきっかけになったかもしれない。
また、最後のほう(6:16)で、サイチョウの声にソングが分断されたという場面があった。やはり周囲の声に注意を払いながら歌っているのだろう。その場面(MP3ファイル)

ソング終了後、近くの木でカニクイザルとやりあってから、中州の木へ、6:42〜6:55まで採食。上図Figの地点には7:12〜8:07まで滞在した。この時、シクサイとシギューは約30分間も追いかけ合いやとっくみあいの遊びをした。
その場面の動画。シギューとシクサイの追いかけっこ(WMVファイル)
この動画の場面では、最初シクサイがシギューを追いかけ、一呼吸於いてから、今度はシギューがシクサイを追いかける。つまり役割が途中でチェンジした
その辺のお互いの呼吸がピッタリ合っているということは、これも一つの他者理解ということになるだろうか。
ここのFigの実は小さく赤い実だった。

 赤くかわいいイチジクの実

その後、ホーンビルトレイルの西側を採食・休憩しながら北上し8月3日にコールした地点に10:01に到着し、何と13:30まで3時間半も同じ場所に滞在した。ここでは採食したり、休んだりしたが遊びはなく、静かにしていた。どことなく緊張感が漂う滞在だった。
この長期滞在は、縄張り境界での北側家族との緊張関係を反映しているのではないかと考えている。

その後、さらに北方に移動したが14:24に見放した。だいたいこの付近で寝たと思われる。15:00には移動を止めるので。
さらに追いかけようと思えばできたのだが、この日で打ち止めと決めていたのでここで止めた。

これで、一週間に及ぶ連続追跡を終了。さすがに疲れた。
しかし、私はこのような執念深い密着追跡によってのみ、テナガザルの気持ちや行動が理解できるようになるのではないかと考えている。

翌8月8日(日)は休養日とした。
しかし、情報は入ってくるもので、12時すぎにスタッフ宿舎裏のsyzigiumの木に戻ってきたのをみたという話がガイドから飛び込んできた。でも、今日は休もう。
ビューポイントへ散歩し、トレイルのGPSデータをとるため付近をゆっくり散策した。

ホーンビルトレイルで今にも倒れそうなひび割れた木を見た。恐いぞ。

 中央に裂け目が。激しい雷雨で倒れるだろう

そして夕方はダナムトレイルへ魚釣りに。

 Donnyと魚釣りへ

 釣れた

8月9日(月)は最終日。
中州へモーニングウオーク。雨が降らないので水がきれい。
中州の木の下にはAlangiumの赤い実がいっぱい落ちていた。
朝食後、部屋で8:30からの最後のウオークの準備をしていたところ、8:05、すぐ近くでコールが聞こえてきた。
シギューのmale solo songだった。こんな時間に珍しい。8:50まで45分間。しかもそこにはシギュー1人しかいない。
コールが終了して移動を始め、従業員宿舎のグランド脇へ来たところでシギューは9:04、短いコール(male short song)をした。
すると、それに呼応して、メインロードの方からシカサンとシウンドのグレートコールが聞こえてきた。
この時、シギューと他の3人は別れて行動していて、コールを呼び交わすことによってそれぞれの場所を教え合い、合流したと考えられる。



昼食後、ロッジを出てラハダトゥへ。定刻にコタキナバル着。

<まとめ>
@隣同士の雄のソングのやりとりを録音したところ、「あちらが歌う時にはこちらが黙り、こちらが歌えばあちらは黙る」という風に交互に歌うのが観察された。
テナガザルのmale solo songは1分間に3-4回の一定間隔で規則正しくフレーズが歌われる。ということは、フレーズとフレーズの間に一定間隔の空白が挿入されているということになるが、これはある特定の個体(隣接する縄張りの雄)のフレーズがそこに挿入されることを期待してのものであった。
つまり、テナガザルの雄のソングは、隣人とのやりとりがやりやすいような構造を最初から持っていたということになる。

Aテナガザルのソングは多様な場面、時刻、長さ、形で歌われる。
・縄張り主張、警告、家族間で呼び合うなどの場面で歌われる。
・Male solo songは夜明け前から始まることが多いが、8:05からの場合もあった。
・Duet songは夜明け後、10時頃までに終了することが多いが、13:08〜13:31の場合もあった。
・ソングの長さにもいろいろある。1時間近いmale solo songが多いが30分で終わることもあり、途中でduet songに変わる場合もある。
・Duet songの導入部には2種類(掛け合いor単調な連続音)あり、場面(縄張り主張or侵入者に対する警告)によって使い分けている可能性がある。

B今回、家族のメンバー内での遊び行動が観察された。
やんちゃ盛りに成長した息子のシクサイをお父さんのシギューが相手になってやって、「追いかけ合い、とっくみあい」などの遊びをした。
こうしてテナガザルの子どもは素早い移動や駆け引きを学習するのかもしれない。

C他のサルとの駆け引きが観察された。
オランウータンとのやりとりは一度もなかった。お互いに素知らぬふりをして採食していた。
クリイロコノハザルは、テナガザルがちょっかいを出すとすぐに逃げ出した。
カニクイザルとテナガザルは仲が悪く、お互いにちょっかいを出し合うが、どちらかが強いということはなく互角の関係である。この争いは食べ物の奪い合いに起因しているようだが、他の要因もあるかもしれない。

D北の隣接家族とは縄張り境界をめぐって緊張関係にあり、SAPAファミリーの方がやや侵略的である。
この4年間SAPAファミリーを観察してきて、このような両者の緊張関係が観察されはじめたのは、2002年12月に音声playback実験(それも再生ポイントが北隣接家族の侵入を予想させるような、両者の縄張り境界に近い地点だった)をやってから後なので、この実験が誘因になった可能性がある。
もしそうだとしたら、両家族のテナガザルの皆さん、ごめんなさい。

そこで、今回の移動ルートから推定されるSAPAファミリーの縄張りは下図のようになる。

 網掛け部分がSAPAファミリーの縄張り

<帰国>
土産に持参した菊姫・米焼酎-加州・剱は従業員に喜んでもらえた。

ロッジのみなさんとお別れして、乾燥してほこりだらけの道をラハダトゥ、そしてKKへ。
センターポイントで土産を買い、夕食はカンポンアイルへ。
ゆでた牡蠣に野菜炒め、それに焼き飯。

 牡蠣  「サバの野菜」炒め

カンポンアイル横の安ホテルで休憩してから、深夜0時すぎに空港へ。
帰りの便は、4時間半のフライト。楽に帰れた。

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