ダナンバレー2003/8/4〜8/16 No1

今回のダナンバレー行きも、手配はジスコにお世話になりました。ジスコのHPはここ
日程は、8/4に成田をたって直行便でKK(コタキナバル)へ。翌日昼にダナンバレー入り。10泊して、8/15朝ダナンバレーを出て、KK-KL経由で関空に8/16朝着というもの。

まず、直行便はKKに夕方着くので、夕食をゆっくりと食べる時間が取れていいです。
10泊という長期滞在は今回初めてでしたが、これでも実際に現地で行動できるのは丸9日間です。できれば2週間くらいはじっくりと観察したいものです。なお、ダナンバレーは、ボルネオ島北東部、マレーシア・サバ州にあります。

 ダナンバレー(赤い矢印)
(地図は、http://www.travelborneo.com/01welcome.htm より引用)

今回の目的は、もちろんテナガザルに対する実験・観察を行うことでした。
前回のモーニングコール最中での音声playback実験では、雄の声も雌の声も一度に全て聞かせてみて反応を見たわけですが、それではテナガザルが雄の声に反応したのか、それとも雌のグレートコールに反応したのかわかりません。それで、今回は雄のモーニングソングの前半部(連続音のないもの:実験A)と後半部(連続音を含むもの:実験B)それに雌のグレートコール(実験C)をそれぞれ2分ずつ録音したものを用意して、別々に聞かせることにしました。

それ以外に、日々の行動を密着して観察することも目的としました。
最初の2日間は手がかりがありませんでしたが、8/8朝にモーニングコールをしてくれたので簡単に発見することができました。そして8/8朝から8/15朝までの7日間、ほぼ連続的に追跡することができました。これは我ながらすごいことです。なぜならテナガザルを追跡するということは、朝は5時過ぎから彼らが行動を終える午後2〜3時頃まで、立ちっぱなし&見上げっぱなし(首がつりそう)という過酷な労働を強いられるからです。普段から走り込んで足腰を鍛え、スタミナをつけておかないと持たない重労働です。
食事は、トランシーバー(アルインコDJ-R20D:これは森の中でも1km程度は電波が届きます。また、一台余分に持参して中間地点にデポして中継機として使用すれば、その倍の距離届きます。)を使って、かみさんと連絡を取り合い、適当な場所へ持参してもらいました。

調査用具一式

上の写真は、今回持ち歩いた調査用具一式です。これ以外に、双眼鏡、トランシーバー、ヘッドランプとこれらを入れるザックがあります。
左上から、調査カバン、水、オールレーズン(非常食)、マンゴージュース、傘、携帯用カッパ、地図、ビデオテープ、DATテープ、予備バッテリー、磁石、予備電池、ライター、デジタルビデオカメラ、いす、マイクスタンド(ホームセンターで売っていた靴置きスタンドを利用)、ナイフ、折れ尺、DATウオークマン、マイク、GPS、フィールドノート、ペン、虫除け。

不思議なことに、水はこのペットボトル(500ml)だけで十分でした。湿度が高いからでしょうか。
今回はGPS(EMPEX社製、MAP21EX)を通販で購入し、ザックに取り付けて持ち歩くことにしました。
SPAのHさんにメールで質問したところ、以下のように助言下さいました。
質問:
「マレーシア、ボルネオ島の原生林での調査で使用に耐えるGPS機種について教えてください。そこの森はかなりうっそうと茂っていて、ほとんど空が見えないくらいのところも部分的にはあります。目的は、歩いた軌跡を時刻とともに復元したいということです。かりに途中でデータがとぎれても、全体が復元できればいいのですが。ログは多めに取れるほうがいいですし、持ち運ぶ位置や携帯性も面倒がない方が望ましいです。」
返答:
「(MAP21EXは)測位条件が悪化したときの粘りもあり、また、非測位からの復帰も早いです。Map21exで測位できなければ、他のGPSレシーバでは絶対に測位できないといって良いと思います。また、CFカードに軌跡を保存できるので128MBのCFカードを使うと100万ポイント保存でき充分です。しかし、電池の消費が多い、多少大きくて重いという欠点があります。」

はたして深い森の中で弱い電波を受信できるのか疑問でしたが、予想外に感度がよく、ほぼ連続的に軌跡を再現することができました。また、重さはそれほど気になりませんでした。ただし、電池の消費はたしかに早く感じました。約7時間で単三電池3本を消費。

GPSデータをもとに地図を作製したところ、以前磁石と歩測で作成したものとは比較にならないくらい精度のいい地図を描くことができました。その結果、例えば縄張り面積が、大幅に修正(14ha→25haへ)されることとなりました。やはり、松沢先生のおっしゃるとおり、野外生態調査にGPSは必須ですね。
白地図に落としたGPSデータ↓です。今回私が歩いた全軌跡を示しています。


それを元に作成した地図↓。


今回、追跡したテナガザル家族の全行動軌跡データ。A・B・Cはプレイバック実験地点を示す。


テナガザル家族(SAPAファミリーと名付けた)の縄張りを図示すると、このようになります。
 縄張り面積は約25ha

前回は、プレイバック実験地点を頻繁に訪れたわけですが、今回はそれほど顕著ではありませんでした。むしろ普段あまり行かない縄張り周辺部を点検しながら歩き回ったように感じられました。ワンパターンの反応を示さないのがテナガザルの特徴です。つまり、知性が高い。

ダナンバレー2003/8/4〜8/16 No2

テナガザルの実験・観察の話に入る前に、ダナンバレーの森と施設について少し説明しておきましょう。
レインフォレストロッジへ行く途中、フィールドセンターに立ち寄りました。ここへ行くのは初めてです。

 宿泊施設(旅行者はここに泊まる)

 見取り図

フィールドセンターの紹介を簡単にしておくと、川を挟んで手前に施設があり、向こう側に森があるという配置になっています。森の中は碁盤の目にトレイルが切ってあって、わかりやすい。そこで研究が行われています。そのため一部立ち入り禁止区域があるようですが、大部分は自由に歩き回れるそうです。この碁盤の目の1区画が25ha(一辺が500m)なので、ほぼ1区画に1家族のテナガザルが住んでいる計算になります。ですので、例えばテナガザルのコールをたくさん録音するのにはいいかもしれません。
ただし、コールが聞こえてからその場所に接近するまでに相当時間がかかるでしょう。

さて、次はいつもお世話になっているレインフォレストロッジです。
ここのロッジは、大きなセンターハウスと20数軒のバンガローからなっています。
センターハウスで食事をとります。またいつでも森を眺めながらコーヒー&サバティーを飲むことができます。

 センターハウスの内部

 夕食

 森を眺めながらティーを飲む

旅行者の方は、ここに来れば動物がいっぱい目の前に現れると期待されているようですが、それは運次第です。動物はいっぱい住んでいるのですが、そんなに簡単には現れてくれません。
それよりも、この森の雰囲気をじっくりと楽しんでほしいなと思います。森はいつもそこにありますから。

 朝の風景(キャノピーで)

ここの従業員はみなさんとてもいい人ばかりです。
もちろん、動物たちも歓迎してくれます。

 サンバーディア

 フライング・レムール

 タランチュラ

これ以外に、今回は、でかいトカゲ(体長2m)、スローロリス、キングフィッシャーを見ました。
あ、そうそう、フライイング・レムールが飛ぶのを初めて見ました。昼間です。幻想的でした。

ダナンバレー2003/8/4〜8/16 No3

さて、いよいよテナガザルの実験・観察について、報告することにしましょう。
今回の目的は、テナガザルのプレイバック実験と実験前後の行動を追跡して、テナガザルのコールの意味を探ろうということでした。
そこで、テナガザルのコールとはいったいどのようなものなのか、初めに説明しておきます。
テナガザルのコールは、大きく@Male solo song とADuet song (female solo song)の2つに分類できます。

@Male solo song
頻度は3〜4日に一回、早朝に40分〜1時間程度続きます。これは、いわゆるモーニングコールと言われているものです。典型的なフレーズは下記のようなものです。


私はこのmale solo song中のフレーズを、最初の連続音(A)と最後の連続音(F)に注目して、以下の4つのタイプに分類しました。
通常は、Sタイプで始まり、A&Fタイプで終了します。
[S]タイプ:AもFも含まないもの
[A]タイプ:Aの連続音(trill)を含むもの
[F]タイプ:Fの連続音を含むもの
[A&F]タイプ:AとFを両方含むもの

ADuet song (female solo song)
雌が主導権を持つ。
導入部(雄・雌の掛け合い)、great call(夫婦に子どもも加わって大合唱になることもあるし、雌が単独でコールする場合もある。また、雌のブラキエーション・ディスプレイを伴う)、後半部(雄・雌による掛け合い)、の3部分からなる。
週に1回程度、午前中(10時頃まで)に、15分間程度続く。

今回の実験では、以下のA、B、C3種類の音声をパソコンに取り込んで、2分間の音声と2分間の空白を交互に5回繰り返した計20分の音声CDを用意しました。
A:male solo songの[S]タイプを録音したもの
B:[A&F]タイプを録音したもの
C:femaleのgreat callを録音したもの

実験した場所は、↓の地図に示してあります。



実験A
8/8早朝05:50にコールが始まったので、すぐ木の下に駆けつけ、06:00から実験開始。
2分ずつ5回、Sタイプ(連続音のない)のコールのみを聞かせてみました(同じフレーズを繰り返し聞かせた)。
最初の再生時(A1)、雄は1分20秒間沈黙したのち、弱々しい声で反応しました。↓下図参照。
また、この時、雌のグレートコールは生じませんでした


実験B
実験Aの2日後(8/10)、実験Aと同じ地点で05:50からコールが始まったので、今度は雄のA&Fタイプ(連続音を含むコール)を聞かせてみました。
この時は、5回目の再生時に雌のグレートコールが生じました。グレートコールはその4分後にも、再度生じました。このことから、雄の連続音が雌のグレートコールの引き金になることが示唆されます。
また、この場合(プレイバック実験に対する反応として)の雌のグレートコールは、最初に「ファ、ファ、ファ・・・」と長く続くフレーズ(警告音と私は考えています)を伴っていて、明らかに普段のデュエットコールとは違っていました。
つまり、グレートコールには、(1)普段のグレートコールと、(2)この場合のグレートコール(明らかに、不法な侵入者に対する警告を意味するもの)の、2つのパターンがあるということになります。

なお、この日の午前7:14〜8:11までの57分間、上記地図のC地点周辺で奇妙なコールが生じました。
この時の音声の波形は↓のとおりです。
Male song(ほとんどSタイプ) とfemale song (ファ、ファ、ファ・・・の連続音の後、雌のグレートコールが繰り返される)のセットが一つの単位になっているように見受けられます。



このmale song中に悲鳴のような、泣き声のような、変な声が混じっていました。しかも頻繁に。
Female songの前半部は、このようなファ、ファ、ファ・・・と続くゆっくりとした単調な連続音で。
Female songの後半部はグレートコールですが、その最後に子ども(推定2歳半)がキャ、キャという声を出して同調しました。このような声は野生では初めて聞きました。
ひょっとすれば、子ども期の声と大人になってからの声は違う、つまり声変わりするのかもしれない

実験C
最終日の前日、8/14の午前8:27〜、コールしてない家族に対してデュエットコールを聞かせてみました。
その結果、すぐさまデュエットコールが返ってきました。これは、Mitani J.C.(1985)の実験結果(デュエットにはデュエットを返すという)と同じです。
2分間のDuet callを3回聞かせた(下図のPlayback C)ところで、雌のファ、ファ、ファ・・・と続く連続音(↓の図のDuet callの開始部)が始まり、その後、雄・雌だけでなく、家族全員のDuet call(16回のグレートコールを含む)に移行しました。



まとめ
今回のプレイバック実験の結果、何が分かったのか?

@まず、8/8に実施した最初の実験A以後、8/15朝までにコールが頻発したということがあげられます。
8/8〜8/15までの8日間でコールがなかったのが2日のみという結果になりました。普段は3〜4日に一度コールがある程度なので、これは異常なことです。侵入者に対しては、頻繁にコールすることによって警告し、縄張りを防衛するということでしょう。

<8/5朝〜8/15朝までのコール>
8/8:05:50〜06:28まで雄のソロソング(いわゆるモーニングコール)←実験A
8/10:05:50〜06:18まで雄のソロソング(いわゆるモーニングコール)←実験B
この時、最後に雌のグレートコールが生じた。また、7:14〜8:11までmale songとfemale songが繰り返されました。
08/11:07:24頃に川沿いでホッ、ホッ、ホッという短い鳴き声が聞こえました。
08/12:06:10?〜06:43までキャノピーへの道沿いで雄のソロソング(いわゆるモーニングコール)。最後に雌のグレートコールがありました。
8/14:実験C後、08:27〜08:53までデュエットコールが生じました。
8/15:?〜06:18まで、雄のソロソング(いわゆるモーニングコール)。この時も最後は雌のグレートコールで終了。

AMale solo song最中でのプレイバック実験(male songを聞かせた)に対して
連続音を含まないコールに雌は反応せず、連続音を含むコールには、グレートコールを返しました。そのグレートコールの最初には、ファ、ファ、ファ・・・というゆっくりと単調な連続音を伴いました。この声は普段のデュエットコールには伴われないので、これが強い警告(あるいは怒り)を表現している可能性があります。

Bコールしてない時のプレイバック実験(デュエットコールを聞かせた)に対して
家族全員によるデュエットコールを返しました。この場合も、最初に、雌のファ、ファ、ファ・・・というゆっくりと単調な連続音を伴いました。前回、コールしてない時にmale solo songを聞かせましたが、この時にはコールを返しませんでした。コールしてない時のプレイバックに対する反応をまとめると、male song→反応せず、duet call→ゆっくりと単調な連続音を最初に伴うduet callを返す、ということになります。

C前回も今回も音源に対して接近するということはありませんでした。
聞こえてくる方向を不思議そうに見てはいました。Mitani J.C.(1985)のプレイバック実験では、100〜150m離れたところから声を聞かせたわけですが、その場合は音源へ接近しました。今回は音源がほぼ真下だったので、彼らが音源に接近するとすれば、地上に降りなければなりません。テナガザルには単にそれができなかっただけなのかもしれません(今までの延べ21日間の観察で、地上に降りるのは見たことは一度もない)。

Dmale songプラスfemale song(ファ、ファ、ファ・・・というゆっくりした単調な警告音に続くグレートコール、この時子どももキャ、キャ、キャという声で同調する)というパターンが何度か繰り返されました。
これが侵入者のmale songに対する反応ということになります。このような組み合わせのコールは普段は聞かれません。
8/15朝のコールでは、雄がコールしながら移動し、一時的に他の家族と別れました(コール後合流)。コールの最後に、雌がグレートコールをしたわけですが、そのコールに娘と息子は同調しましたが雄は声を出しませんでした。つまり、デュエットコールでデュエットするのは夫婦とは限らないわけです。この場合は母・娘がデュエットし、最後に息子がキャキャキャと声を出しました(そういえば、今まで聞いたデュエットも夫婦でやっていたという証拠はない)。結局この日の朝は、4人の家族全員が何らかのコールに参加していたわけで、このことは、縄張りを犯した侵入者の声を聞いたとき、家族全員が声を出しあって侵入者に立ち向かうということを示しています。

E今回使用したラジカセはそれほど大きな音を出せるものではありませんでした。それにもかかわらず、真剣に反応してくれました。また、実験に使用した音声は自分たち自身のものでしたが、敏感に反応したことから考えて、自分たちの声と認識していたとは考えにくいです(自分の声を自分と認識できなくても、夫婦の片方は相方の声を認識するのではないかと考えられるのですが)。あるいは、あまりに自分の声とよく似ているので動転したということも考えられます。ちょうど幽霊が目の前に現れた時に動揺するだろうヒトのように。

Fテナガザルのコールはミュージカルだ!
上の音の波形図を見れば分かるように、彼らは一定の間隔で規則的に声を組み合わせて歌っています。歌にリズム感があります。しかもデュエットの場合は、声を出しながらディスプレイ(ブラキェーションやジャンプ)もするのです。下から見上げていると、まるでミュージカルを観劇しているような錯覚におちいりました。素晴らしい演技ですね。

ダナンバレー2003/8/4〜8/16 No4

次に、テナガザルの行動について、触れておきましょう。

1.ロープダウン
高い木の横に垂れ下がっているツタを上手に降りました。両手両足をうまく使用していました。



2.移動順序
やっと個体認識ができるようになって、移動する時の順番が分かるようになりました。
ほとんどの場合、お父さん(Sigew)が先頭を行き、姉さん(Siunduk)、弟(Sikusai)、お母さん(Sikasang)の順で続きます。今回初めてファミリー(SAPA)の個体に名前をつけました。命名者はガイドのDonnyです。

父(Sigew)

3.子どもにジャンプを教える。

いつも一緒に行動する、息子のSikusaiと母のSikasang

今回気のついたことは、この2年間(息子のSikusaiが幼児だった:現在推定で2歳半)一度も通ったことのないルートをSAPAファミリーが通るようになっていたことです。そのルートには、息子のSikusaiがまだ小さくて、飛び越えることができない部分がありました。
つまり、このルートを幼児が飛び越えられないということを、他のメンバー、特に父母は認識していたということになります。
その部分をどのように飛び越えたかを観察してみました。
父、姉が飛び越えた後、Sikusaiが飛ぼうとしましたが、尻込みして立ち止まってしまいました。それで、お母さんのSikasangが見本を見せました。最後に取り残されたSikusaiは、一生懸命飛ぼうと身構えますが、どうしても恐くて飛べません。そこで、どうしたかというと、ちょっと遠回りして、枝の間隔が狭いところを見つけて飛び越えました。
見本を見せておいて、あとは、自分自身で考え判断し行動するよう促すという、これって、立派な”教育”ですね。

4.どこで寝るか?
今まで高い木の上で寝るものだとばかり思いこんでいましたが、違う例を目撃しました。
それは、8/9の午後、14:30頃、A地点の西の木で、ある個体(母・息子でないことは確か、また、父は翌朝高い木の上でコールしたので、おそらく娘のSiundukだと考えられる)が動かなくなりました。それほど高い木の上ではありません。せいぜい高さ15mくらい。枝にもたれかかってじっとしています。他のメンバーは、横のA地点にある高いフタバガキのてっぺんの方に行ってしまいました。はたして彼女はそのままこの低い枝の上で寝るのだろうか?
そこで、しつこく観察することにしました。
夕立をはさんで、午後18:00まで、彼女はそこにじっとしていました。周囲は薄暗くなり、これ以後動くことはあるまいと判断してその場を立ち去りましたが、ほぼ間違いなくそこで寝たと考えられます。
皆が皆、高い木の上で寝るわけではないことが、これで分かりました。
ひょっとすると、娘が成長して大きくなったので、そろそろ家族から離脱する準備だったのかもしれません。
また、夕立をはさんで寝姿が変わらなかったので、雨(この時の雨はそれほど強いものではなかったが)でも姿勢を変えないことがわかりました。
その寝姿は、枝に背中をもたれかけた”座り寝”といった姿でした。
就寝時間は、この時確認した14:30以外に14:00(8/13)というのもありました。また、14:50以後まで動いた(8/12)こともありました。14:00〜15:00に動くのを止めてじっとしていても、時々もぞもぞと動くので寝てるようには見えません。おそらく、17:00前後に眠ってしまうのでしょう。その頃は全く動きませんでしたから。

5.薬草を食べるのか?
ある種の赤い葉を好んで食べることは、以前から分かっていました。
今回初めて、その食べかけの赤い葉の破片を入手することができました。

現地の人によると、このような赤い葉は若葉で、薬の成分が含まれているというのです。
テナガザルが意識して、この葉を薬として食べているとしたら、面白いことです。
ビタミンなどの微量元素を摂取している可能性もあります。成分を分析できればいいのですが、・・・。

6.便所がある
木のうろを水場として認識して利用していることは、以前報告しました。
今回、彼らが便所と認識している場所のあることがわかりました。
今までにも何度か、同じ場所でうんち&小便を目撃したので、そこで待ち受けていたら、やっぱりうんちをしました(それも一個体だけではありません)。
そのような場所は、下に広い空間が広がっているところが多いです(その結果、地上に確実に種が落ちています)。気持ちがいいのかな?それとも、衛生上の理由?
私は今回その場所で見上げていて、うんちをひっかけられました。
うんちを浴びれば、これでサル追跡者としては一人前かなあ?それほど臭くはなかったです。

 堅めのうんち

うんちに含まれていた種子

この茶色い種は↓の種子の種でした。黒い種↑の名前はわかりません。
Peltophorum racemosum

7.テナガザルの食べた果実
雨期に比べ、やはり果実は豊富にありました(ボルネオの8月は乾期です)。
果実が主食で、デザートが葉という感じ。雨期では、果実が少ないので、果実と葉が半々といった感じでしょうか。
一度だけ、お母さんのSikasangが木のうろに手をつっこんで、なにやら白いものを食べるのを見ました。
また、今回も木のうろに溜まった水を手ですくって飲むのを目撃しました。日常的に木のうろを利用して水を飲んでいるようです。

 イチジク

Euphorbiaceae

Myrtaceae

Creeper

8.モーニングコール開始時間
滞在中、ロッジ周辺でテナガザルが鳴き始める時刻を記録してみました。
これで、寝覚めの時刻が推定できるでしょうから。
だいたい午前5時過ぎには起床してるようです。

8/6 :05:24
8/7 :05:30
8/8 :05:44
8/9 :05:46
8/10 :05:40
8/11 :05:23
8/12 :05:17
8/13 :?(発電機のそばにいたので聞こえなかった)
8/14 :05:24
8/15 :05:00

最終日の8/15の朝は月明かりで森が明るかったので、起床が早かったのかもしれない。
それで、一日の行動をまとめると、以下のようになります。
朝は5時過ぎに起床。この時、3〜4日に一度、雄がモーニングコールする。
それから10時頃までは果実のある木を求めて移動しながら、一生懸命食事する。この時、デュエットコールする場合もある。
10:00〜14:00頃までは、休憩しながら、グルーミングしたり、遊んだり、軽く食事をしたりして時間をつぶし、14:00頃ねぐらの木に到着。
15:00には動かなくなり、17:00前後には就寝する。

9.テナガザルはデリケートなサル
テナガザルはプレイバック実験に過敏に反応しました。
実験地点に戻ってきてコールしたり、縄張り周辺部をパトロールしたり、male songやグレートコールを頻発したり、明らかに動揺しているなというような声を出したり、・・・。
7日間一緒に行動してみて、その心理状態がひしひしと伝わってきました。
「声は聞こえるけれど姿が見えない、どこにいるんだろう?いったい誰が進入してきたんだろう?」という不安が感じられました。
テナガザルはもう少し親和的にコールを掛け合ってるのではないかと想像していましたが、侵入者に対しては違うということがわかりました(普段の縄張りの外から聞こえてくるコールに対しては、お互いにゆったりと声を掛け合っています。そのコールとは明らかに声の質が違っていたので、きっと意味合いも違うのでしょう。)。
テナガザル家族が動揺している様子を見て、この実験はよくなかったかなとちょっと反省させられました。



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