嵐山モンキーパーク岩田山でのニホンザルに対する実験 No1 2004年3月7日(日)

※このページの動画は全てWMVファイルです。

 岩田山から京都市内をのぞむ

はじめに
私がテーマとしているテナガザルは、ニホンザル(マカクザル)とチンパンジーなど大型類人猿との中間的存在なので、ニホンザルがどういうサルなのかを知ることはテナガザルを理解する上でもたいへん重要です。そのニホンザルを肌で感じたいと以前から思っていましたが、適当なサルが身近におらず実現しませんでした。
昨年末、京都の高校理科教師(理科連教)の研修会で岩田山を訪れニホンザルを観察した時、サルたちがたいへん落ち着いていたので、これならちょっとした認知実験ならできるのではないかと考え、訪れることにしました。

動物実験は対象動物がストレスのない環境でのびのびと生活していないと、いい結果が出ません。
それと、ある実験ができないという結果になったとしても、それが本当にサルの能力を判定していたのか、サルの側に何らかの原因があって(例えばお腹がいっぱいだったり、眠かったりして)できなかったのか、あるいは実験者側の手続き上の問題があってできなかったのか、よく分かりません。
ですので、できる限りいい環境で育った動物を対象にして、できそうな課題を与え、実際にできたという結果を引き出すことに意味があると考えられます。

当日は、嵐山のサルでグルーミングの研究をされていたFさんに手伝ってもらいました。
雪が舞う寒い日でした。午後2時から実験開始。午後3時まで実施。
寒いのに大勢の訪問者がいました。こういう環境は福知山市動物園で経験しているので慣れています(でも、できるならば来訪者の少ない平日の午前中の方が、サルが実験に集中できて望ましいでしょう)。

実験といっても、野生のサルにいきなり厳密で統制の取れた実験ができるわけがないので、今回はそうした意味のある実験ができるかどうかをみる予備実験として実施しました。
なお、今回は対象のサルが特定されていない(できるだけ大人のサルを選んでやりましたが)ので、データに統計的な意味はありません

実験結果
@2つカップの一方に餌を入れるのを見せてから、取らせる。
3回やって全部正解。それで、次へ。

 その場面の動画:

A2つカップの一方に餌を隠し(隠す場面は見せない)、それを指さしで示して取らせる。
4回やって全部正解。

 その場面:

B2つカップの一方に餌を入れるのを見せ、台を180度回転してから取らせる。
8回やって6回正解。その場面:

Cレーキを引っ張って餌を取る。
この実験は、サルがレーキを怖がって、どうしてもできませんでした。

D2つカップの一方に餌を隠し(隠す場面は見せない)、隠した方にランドマークを5秒間のせてから提示し、取らせる。
8回やって4回正解。ということはできなかったということ。その場面:

E2つの皿に3ヶと1ヶのリンゴ片を入れて提示し、多い方を取るかどうかを見る。
10回やって7回多い方を先に取りました(↓の例は先に少ない方を取ったのでカウントしてません)。
この実験で、面白い場面がありました。
最初から5回連続で多い方を取った後のことですが、まず提示した台を右手で掴んでおいてから、少ない方を取り、それから多い方を取りました。つまり、両方を取ってやろうという意志がありました。
このことから、このサル(5歳くらい?)が欲張りなこころを持っていることが分かりました。
その場面の画像↓。

 まず右手で台を掴んでおいてから、少ない方を取り

 次に、多い方を取る

感想
感想としては、ニホンザルは新しいものに警戒心が強く、ほとんどのサルが検査にのってきませんでした。しかし、中には好奇心の強いのがいて、それが実験に協力してくれました。ニホンザルにも個性があるんですね。
いきなり(訓練なし)の実験にしては、良くできたと言えるのではないでしょうか。
何回かやって検査道具や手続きに慣れさせれば、ちゃんとした実験ができそうな印象を持ちました。
今後、お客さんが少なく、餌をあまりもらっていない空腹時をねらって、特定のサルを対象にして実験をやれば、データがとれそうです。

嵐山モンキーパーク岩田山でのニホンザルに対する実験 No2
*動画(WMVファイル)はWindows Media Player 9で見ることができます。

<その1>:2004年5月17日(月):雨のちくもり
朝から雨模様でJR福知山線は大雨のため少し遅れていたが、山陰線は平常運転で嵯峨嵐山には定刻(8時51分)に着いた。
雨の中を岩田山に向かうと、少しずつ小やみになってきた。9時20分頃に小屋到着。
訪問者は私を含め3人だった。うち一人は写真が目的の若い女性で、もう一人は石遊びを研究している外国人研究者だった。

 管理小屋

 実験場所の外観

少人数のおかげでゆったりと実験することができた。
今回の実験は、以下の項目の課題を目的としていた。二つカップのうちの一つ(餌入り)を選択する課題(二肢選択課題)。

@バロン・コーエンの顔刺激図形を使用した視線追従実験
Aランドマーク(色と形の弁別)課題

 顔刺激図形を使用した視線追従実験(羽村での画像)

 ランドマーク課題(黄色・丸と黄色・三角の選択課題、黄色・丸が正解)

まず、目の前にいた”クーパー65-71-87”で指さし指示による選択課題をやってみると4/4の正答率だったので、次の実験にうつろうとしたらどこかへ行ってしまった。
それで、そばにいた”ミノ79-91”に指さし指示課題を1回やるとできたので、すぐ(練習なしに)視線追従実験にうつった。
彼女は13歳。以下の実験は全て彼女で実施。

@バロン・コーエンの顔刺激図形を使用した視線追従実験の結果
たいていのサルが顔図形を警戒して怖がり、逃げていったが、”ミノ79-91”は怖がらず検査にのってきた。
×、○、○、○、○、×、○、○
6/8の正答率。
次に、
A餌の入っているカップの上に黄色・丸のランドマークを5秒間置いてから選択させる課題
2回練習してから、実施。5/8の正答率。
×、×、○、○、○、○、○、×
B餌の入っているカップの上に黄色・丸のランドマークを、入ってない方には赤色・丸のランドマークを5秒間置いてから選択させる課題
2回練習してから、実施。6/8の正答率。
○、○、×、○、○、○、×、○
C餌の入っているカップの上に黄色・丸のランドマークを、入ってない方には黄色・三角のランドマークを5秒間置いてから選択させる課題
2回練習してから、実施。7/8の正答率。
○、○、×、○、○、○、○、○

 ランドマーク課題(手前が黄色・丸、向こうが黄色・三角)

 正解
この場面の動画(WMVファイル):

<その2>:2004年5月**日(*):くもりのち晴れ
9時16分に小屋に到着。一番乗り。岩田山への山道にも慣れてきた。
滋賀県立大院生・藤本さんに手伝ってもらった。訪問者は、修学旅行生の小グループ、京大の院生、外国人の研究者に一般客が少々で、この日も落ち着いて実験ができた。
小屋の周囲でサルたちはだるそうに寝ころんだりグルーミングしたりしていた。”ミノ79-91”はいない。探したが10時30分の餌やり直前まで見つからなかった。結局、彼女は広場のヘリの木の上にいた。
小屋の金網のすぐ前で餌をまいてもらったので、”ミノ79-91”もそこにやってきた。そこでカップと顔図形を見せると、覚えていたようですぐに反応して手を出した。それで、小屋に入って待っているとすぐにやってきて実験に参加してくれた。

@バロン・コーエンの顔刺激図形を使用した視線追従実験の結果
練習なしでいきなり実験開始。8回試行して全て正解。すごい!

 視線追従課題

 正解
この場面の動画(WMVファイル):

A餌の入っているカップの上に黄色・丸のランドマークを5秒間置いてから選択させる課題
2回練習してから、実施。4/8の正答率。
×、○、○、×、×、○、○、×
その後、”ミノ79-91”はどこかへ行ってしまった。

それで、目の前に現れた”ミノ82-98”で@視線追従実験をやってみた。
結果は、5/8の正答率だった。
○、○、×、○、○、×、×、○

<まとめ>
1.バロン・コーエンの顔刺激図形を使用した視線追従実験
”ミノ79-91”(13歳・雌)では、14/16(6/8、8/8)の正答率になった
これは、二項検定でp < 0.00209となる。

大部分のサルは顔図形を怖がり、近づけると逃げていった。しかし、中には怖がらないサルもいて視線追従実験ができた。実際のヒトの視線を見るのは難しいが、絵での刺激だとあまり抵抗なく見つめられるのかもしれない。
ともかく、一例だけではあるが、類人猿だけでなくニホンザルも二肢選択課題で「視線」を手がかりにできることが分かった。これは視覚的共同注意の進化的起源がかなり古いということを示すのだろう。

2.ランドマーク課題はデータが不足していて何とも言えないが、5月17日の実験では、試行を重ねるにつれて正答率が上昇したので、黄色・丸が餌入りカップのシンボルであることを学習できる可能性がある。しかし、この課題はもっとデータを増やして検討する必要がある。

<補足と感想>
2004年5月**日(*):晴れ
ベースライン実験(何の指示もなしに取らせる)と視線追従実験の3回目のデータ取るため、上記<その2>の4日後に岩田山を訪問した。登り口で、5月17日に一緒だった写真家の女性と出会い、小屋まで話をしながら登った。
9時20分に小屋到着。
”ミノ79-91”は付近にいなかったので、朝の餌やりまで待ったところ、小屋のそばに出てきた。それで顔図形を見せると反応してくれたので、前回と同じく小屋の中で待ってみた。すると、すぐにやってきて2回分のデータを取った(どちらも○)ところまでは良かったのだが、そこへ上位の個体がじゃまをしに来たので、”ミノ79-91”はどこかへ逃げていってしまった。
その後、12時前まで粘った。”ミノ79-91”は何度か近くに来たが、上位の個体がそばに居座っているため近づけない。それで、結局実験を断念せざるを得なかった。

前回までは、ほとんどの個体が青色カップや顔図形を怖がっていたのに、今回は怖がらなくなっていた。
これは、”ミノ79-91”が実験をしているのを見て、周囲の個体が実験に慣れたためだと考えられる(こういうのを社会的参照というのだろう)。
テナガザルでも、さつきが実験しているのを見て、ちゃは次第に「ぼくもやってみたい」と言わんばかりに手を差し出すようになった。テナガザルの場合は、ちゃがさつきの意図を理解して遠慮してくれるので実験を継続できている。しかし、序列の厳しい社会に生きる半野生のニホンザルでは、いったん実験に対する恐怖心が取り除かれると、個体間の序列関係が影響して、特定の個体だけを対象に実験を継続するのは難しくなる。
今回の一連の実験を通じて、半野生ニホンザルに対する認知実験の良い面(サルたちが伸び伸びと生活しているので能力を最大限に発揮できる)と限界を感じとることができた。

 餌やりを観察する園児たち

”みの7991”は13歳の雌ザルだが、ほとんどのサルが警戒して顔図形や青色カップに近づかなかったのに、恐れず検査にのってきた。新しいものに挑戦する気持ちがあるということは、つまり、進歩がある=賢いということだと思われる。そのような個体を対象に実験したからこそ視線追従ができたのであって、全ての個体でできるとは限らないだろう。

<さらに補足>
上記の顔図形実験について、霊長研・松沢哲郎氏より以下の指摘がありました。それで、チャンスがあればやり直そうと考えています。

「・・・要は、こうした実験では「ダブル・ブラインド・テスト」という、心理学の手法が必須です。
1)サルは、どちらのカップの中に餌があるか知らない
2)カップを操作する実験者も、どちらのカップの中に餌があるか知らない
二重に「知らない」ので、ダブル・ブラインド・テストといいます。
実験者が正解の位置を知っているばあい、この場面でのテストは信頼性が低いといわざるをえません。心理学というのは、とくに実験心理学は、人の複雑な心を測定しようという学問なので、念には念を入れて、注意深い実験と、コントロール(統制条件)を要請します。・・・」

HPtopへ

inserted by FC2 system